Chapter 12-5

 巨大にして肥沃な図体へと変貌を遂げた怪物。

 これを前にしてカヴォロスたちはしかし、敢然と立ち向かう。


「なに。一つにまとまってくれるなら都合がいいというもの」

「そうですね」


 前に出たのはアヴェンシルと結花だ。その後ろにデトリクスが続く。

 アヴェンシルが腕を振るうと、吹雪が渦を巻いて怪物へと襲いかかる。これに包まれた怪物は足と尻尾の先から凍り付いていく。


 結花は地面を蹴り、怪物へと斬りかかる。狙うのは凍り付いた前足だ。同時に飛び出したデトリクスも同様に前足を狙う。

 白銀に煌めく刀身が、氷ごと左前足を粉砕する。その反対、右前足も小太刀を穿たれ砕け散る。


 しかし、直後に起きた異変にアヴェンシルと結花、デトリクスは目を見開くことになる。


 砕け散った左前足が、瞬く間に再生したのだ。そして力任せに足と尻尾の氷を砕いて振り払う。


「ほう……!」


 感心するアヴェンシルを余所に、怪物は尻尾を振るって結花に向けて叩き付ける。

 これを聖剣の刀身で受け止めるが、結花の身体は堪らず弾き飛ばされる。

 そんな彼女の身体をデトリクスが受け止め、アヴェンシルの元へと後退する。


「さすがに、ただ大きくなっただけではないようですね」

「そのようじゃの、デトリクス。これはなかなか、骨が折れそうじゃ」


 言いながら、アヴェンシルは笑みを深める。

 対照的に、結花は口元を引き締めて剣を構えた。


 それを見ていたカヴォロスは、彼女らの後ろから声をかける。


「三人とも、すまん。少し時間をくれ!」


 カヴォロスは腰を深く落とし、拳を構えた。そして目を閉じて集中する。すると彼の身体が青白いオーラのようなものに包まれる。


 この間にも襲い来る怪物を、結花とデトリクスが応戦し、アヴェンシルが腕の一振りで凍り付かせる。


「なにをするつもりかは知らぬが……その前に終わるかもしれぬぞ?」


 凍ったのは尻尾と胴体だ。ここを狙いすました結花とデトリクスの剣が叩き割る。

 尻尾を失い、身体を真っ二つにされた怪物だったが、しかしそれでも彼奴はすぐさま再生して再び動き始めた。


「これでも駄目だっぺか……!」

「デトさん!」


 尻尾を砕いたデトリクスへ、復元された尻尾が叩きつけられそうになる。結花は彼女の前にすぐさま駆け寄り、上から襲い来る尻尾の一撃を刀身で受け止める。


「結花様!!」

「う……! こ、のぉぉぉぉっ!!」


 ――結花、もう少し耐えてくれ!

 彼女らの攻防を肌で感じながら、カヴォロスは集中力を増していく。


 彼の身体を包むオーラは、彼の魔力が活性化し可視化されたものだ。燃え盛る炎のように立ち昇るオーラは、その身に還り漆黒の鎧へと注がれていた。


 やがて鎧はカヴォロスの身体を離れ、形を変えながらカヴォロスの拳へと結集していく。

 赤羽サツキより賜ったこの鎧。魔術兵装であるこの鎧には、着用者の身体的特徴を得るという性質があった。明らかに人間が着用することを想定されていない性質だが、カヴォロスにとっては好都合だった。


 しかし、この鎧の神髄はそこではない。魔力を注ぎ込むことにより、対城兵器へと姿を変えるのである。

 そしてカヴォロスの右腕は、巨大な爪のような兵器に包まれることとなった。


「貴様の弱点は……既に見切った!!」


 カヴォロスはその背の翼をはためかせ、中空へと飛び立つ。


「――王竜剣」


 カヴォロスの振り下ろした漆黒の拳が、怪物の頭部を粉砕し、その巨躯を両断した。

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