Chapter 12-2
「流石ね、アヴェンシル」
「ふん、お主に言われるまでもないわ」
聖剣の勇者からの賛辞を、アヴェンシルは鼻を鳴らして一蹴する。またこのような小娘が勇者に選ばれたのかと思っていたが、この口振り。間違いなくララファエル・オルグラッド。
瞬間的にそう察したアヴェンシルは、色々と訊きたくなるのを抑え、目の前の敵に集中する。
アヴェンシルはその後も次々と現れる怪物どもに応戦していく。だが一向に数が減らない。これはもしや。
「デトリクス。お主はどこかに隠されておる魔術陣を探すのじゃ。こやつらは恐らく、そこから召喚され続けておる。妾はこの足手まといを庇いながらこやつらを引き付ける。ゆけ!」
「はっ!」
デトがこの場から離脱すると、アヴェンシルの周囲の冷気が更に強まる。
「ではここからは我慢比べといこうかの。……巻き込まれて死んでも責任はとらぬぞ、勇者よ」
「お生憎様。そこまで弱ったつもりはないわ」
「減らず口を!」
アヴェンシルは両腕を大きく振るった。
しかしカヴォロスはどこにいるのか。戦いの中で彼の姿を探す。
「! あれは……っ!!」
そうして見つけたのは、誰もいない場所で倒れ伏すカヴォロスの姿だった。
※ ※ ※
「終わりだ」
頭上に現れた男は、剣の切っ先を下に向けた状態で急降下してくる。
「ぐああああああああッ!!」
カヴォロスは咄嗟に回避するが、しかし剣は右肩からカヴォロスの肉体を抉った。男は着地すると、剣を振り上げ傷口から更に斬り裂こうとした。
だが、剣は持ち上がる事なく、カヴォロスの身体に埋まったまま動かなかった。
「……捕らえたぞ……!!」
自身の肉体を貫く剣を、カヴォロスはその手で掴んで離さなかったのだ。
瞠目する男の頭部を、左手で掴み民家の壁に叩き付ける。
「がッ……!!」
男の手から剣が離れる。カヴォロスはそれを傷口から抜き、投げ捨てた。
「さて……」
カヴォロスは男の胸倉を掴む。その腹に膝を入れ、身動きを取れないようにする。
「聞かせてもらおうか、貴様が何者なのか。何の目的でこの里を襲ったのか」
「……答える必要は、ない……!」
「そうか」
カヴォロスはもう一度男の頭を掴み、壁に叩き付ける。
「別に答えなくとも構わん。貴様がここで死ぬだけだ」
武人であるカヴォロスに拷問は性に合わない。一度問うた質問に答えるつもりがないのなら、ただ潔く介錯してやるのみ。
「ぐっ……!!」
と、男は奥歯を噛み込んだ。その瞬間、吹雪をかき消さんばかりの熱風が巻き起こる。
「なんだ……っ!?」
カヴォロスは咄嗟に両腕をクロスし、顔を護る。
その間に再び、男の姿はカヴォロスの前から消えていた。
風が止み、気配に気付いて上を見やる。
するとそこには、屋根の上に立つ男の姿があった。
「……俺の名はシロッコ。『黒翼機関』のエキスパート、シロッコだ。目的は勇者の暗殺だ」
身をひるがえした男の背には、漆黒の双翼があった。
その翼を羽ばたかせると、男の姿は完全にこの場から消えてなくなってしまった。
「『黒翼機関』……」
それは組織の名か。カヴォロスにはその名に聞き覚えはない。
「ぐっ……!!」
傷が痛み、思考がまとまらない。カヴォロスは膝を突き、そのまま倒れ込んでしまった。
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