Chapter 11-2

「それでは、カヴォロス様のご無事を祝って! かんぱーい!」


 デトの音頭で祝杯が上がる。グラスのぶつかる音が鳴り響き、村民たちはそれぞれ手にした酒を口にする。

 そして食事を始める。料理を作ったのはそのほとんどがベルカだった。今も肉を焼くなど調理を続けている。


「……あいつ、馴染みっぷりがすごいな」

「そうね。大人しくしていろって言われたのに、自分から手伝いに行ったものね」


 持て成されるのは性に合わないと、ベルカは率先して宴の準備を手伝っていた。そのおかげかすっかり村人たちにも受け入れられていた。

 エルクは吟遊詩人として歌を披露しようとしたので、寸での所で楽器の演奏だけに留まらせた。危ない所だった。今は里の民たちと酒を酌み交わしている。


「カヴォロス様、いかがでしょうか」


 そこへデトが酒瓶を手にやってくる。佇まいを直し、カヴォロスとララに酌をする。ララ(結花)は聖剣の加護のおかげで毒が効かないらしいので、飲んでも問題ないそうだ。竜成的にはうらやましい限りだった。しかしこの身は四魔神将カヴォロス。酒は呑んでも飲まれる事はないッ!

 ぐいっと飲み干し、カヴォロスは口を開く。


「してデトリクス殿。この里は一体? 失礼ながら、魔狼族の里は既に滅んだものだとばかり思っていたのだが……」


 デトは空を見上げた。降ってくる雪が篝火に溶けていく。


「……アヴェンシル様は勇者との決闘の地にこの里を選びました。そして里の皆を外へ逃がし、私を側近の任より解任なされました。私に、戦後の里の復興を託して」


 遠くを見つめるその瞳が見ているのは、果たして今目の前にある空なのだろうか。


「その後、私は生き残った魔狼族たちを連れて里に戻ってきました。そしていつしか、グルジファルドさんのような生き残りの魔族たちが身を寄せるようになり、今に至ります。……おそらく、他の種族の里もこうした隠れ里として今も残っているのではないでしょうか。魔龍族の里はいかがですか?」

「……いや。まだ確かめてはいない」


 確かに、こうして生き延びている魔族がいるのならあり得るかもしれない。というより、魔龍族の長たる身であるのならば、まずは里の無事を確認するべきだったのだ。状況がそれを許さなかったというのもあるが、魔族が絶えたと聞いた時、それをすんなりと受け入れ過ぎていた。人間としての生を経て、聞き分けがよくなり過ぎたのか?


「そうですか。ぜひ一度、ご確認なさってください。もし彼らが生き延びているのなら、カヴォロス様のご帰還をきっと喜ばれます」

「そう……だろうか」


 魔龍族はとりわけ誇り高い種族だ。長とはいえ、勇者に負けた者を受け入れてくれるだろうか。いや、それ以前に長たる者が敗北したとなれば迷わず自決を選ぶだろう。ダルファザルクが自分を残して敗れたとしたら、かつてのカヴォロスなら確実にそうしていた。


「しかし、そういう事でしたらこの里の存在は知らなかったのですよね? ここへいらっしゃったのは、もしや」

「ああ」


 カヴォロスは杯を置き、デトに向き直る。


「永久凍土に封じられたという、四魔神将アヴェンシル。彼女を迎えに来た」

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