Chapter11 魔狼族の里
Chapter 11-1
「こっぢですー」
女性に案内されて辿り着いたのは、雪原の中に切り建てられた村だった。
木造りの、古びた家々が点々とする小さな村である。
だが特徴的なのはそこだけではない。周囲を見渡す。そこに暮らす人々の姿がちらほらと見える。その誰もがもこもことした防寒着を着ており、なによりその種族がバラバラだった。
ここは一体、とカヴォロスたちが疑問に思う中、村人が先頭の女性に話しかけてくる。
「デトさん、新しい人たちかい?」
背の低い、髭の濃い男性だった。この特徴を持つのは魔窟族と呼ばれる種族で、竜成の世界で言えばドワーフに似ていた。
デトさんと呼ばれた女性は首を横に振る。
「うんにゃ、この人たちはお客様だべ。というか、このお方を見て誰だかわがんねぇだか?」
「んん? んんん?」
男性は顎に手を当て、カヴォロスの顔をまじまじと見つめてきた。
「あんた、魔龍族だな。それにこの立派な角……。んんん――まさか!?」
「そのまさかだべ」
男性は口を開き、瞠目すると、慌ててカヴォロスの前に跪く。
「こ、これは失礼しやした! 四魔神将カヴォロス様! この魔窟族グルジファルド、こうして500年、生き恥を晒してございやす」
「魔窟族のグルジファルド? まさか、あのグルジファルドか!? 顔を上げよ、グルジファルド。よく生き延びていたな。しかし老けたなお主……」
思い出すのは、カヴォロスの配下であった魔窟族の青年である。ララファエルとの最終決戦を前に、城から逃がした兵士の一人だったが、生き延びていてくれたのか。
「いえ、カヴォロス様に至りやしてはお変わりなく……お変わりなさすぎやしやせんか?」
「ん、んんっ。これには訳があってな……。まあ、それはよい。今はこちらのご婦人に案内を受けている最中だ。積もる話は後にしよう」
「ははぁっ! ではまた後程。お待ちしておりやす」
グルジファルドとはそこで別れ、再びデトの後に付いていく。
そうしてやってきたのは彼女の家だった。古びてはいるが、小さなコテージのような造りの良い家だ。
中は暖炉が点いていて非常に暖かかった。防寒着を脱いだデトに合わせて、カヴォロスたちも上着を脱いで楽な服装になる。
フードを外したデトは、白く透き通った肌をした美女だった。両のこめかみからは短い角が生えており、犬歯が長く鋭いのは魔狼族の特徴だ。
カヴォロスはその顔に見覚えがあった。
「そんじゃあ」
彼女は佇まいを直して、カヴォロスたちの前に跪く。
「改めまして。お久しゅうございます、四魔神将カヴォロス様。私、四魔神将アヴェンシル様の側近を務めておりました魔狼族。名をデトリクスと申します。現在はここ、落ち延びた魔族たちの集落となった魔狼族の里にて、里長を務めさせていただいております」
「やはりアヴェンシルの……! 通りで見覚えがあると思った」
「覚えていてくださったとは恐縮です。カヴォロス様が生きておられました事、誠に喜び申し上げます。つきましては宴のご用意などさせていただきたく存じますので、カヴォロス様はお連れの皆様とこちらでお休みください」
こうして村では、夜通し喜びの宴が開催される運びとなったのであった。
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