Chapter 10-5
一晩明けると、一行は洞窟の奥を目指して出発した。
途中、吊り橋を渡るなどやや危険な道もあったが、なんとか洞窟を抜ける。
するとそこは、一面の銀世界だった。
昨日あれほど吹き荒れていた吹雪はピタリと止んでおり、視界いっぱいに広がる白銀の世界を、これでもかと楽しむ事ができた。
「これは、壮観ですね……!」
「ああ」
思わず漏らしたというようなエルクの声に、カヴォロスは頷く。
朝の光に照らされた雪が、白く光る。美しく、幻想的な光景だった。
しかしここで、強い敵意のようなものを感じる。
カヴォロスたちは腰を落とし戦闘態勢を取る。――疾い。足音が近付いてくるスピードが尋常ではない。獣の類か。人間には出せない獰猛さを感じる。
数は複数。囲まれてはマズい、とカヴォロスたちは洞窟を背にして待ち構える。
やがて山の奥から現れたのは、四本足の獣たちだった。
「こいつらは……!」
「魔獣ですね」
それは、カヴォロス並の大きさの体躯・白銀の毛並みを持つ、狼のような獣である。
構えるカヴォロスたちに対し、銀狼は唸り声を上げて威嚇してくる。白い体毛は氷のような冷たさを感じさせるが、これは比喩ではない。実際に、彼奴の身体は冷気を放っているのだ。
魔獣。その名の通り獣の姿を持つ、魔族の眷属たちである。魔族が使役する駒として生み出したものたちであり、主人の命令を聞き分ける高い知性と、主人の魔力で作り上げられたが故の高い魔力を有する。
この銀狼は、魔狼族と呼ばれる極寒の地に栄えた魔族たちの眷属だ。冷気を操る魔力に長けた魔狼族の力を、彼奴も備えている。
それにしても、魔獣がまだ存在していたとは。以前、魔族が絶えたと聞いた時は、魔獣の存在もなくなったのだとカヴォロスは自然に理解していたが、そうではないらしい。エルクとベルカが当然のように魔獣と相対している事からも明白である。
唸り声を上げながらこちらににじり寄ってくる魔獣たちに、カヴォロスたちの緊張が高まっていく。
そして、群れの中の一匹がこちらに襲いかかろうとした所で、
「――こらっ、止めねぇか!!」
その声は、群れの後ろから響いた。
見やれば、そこに立っていたのはもこもことした防寒着に身を包んだ女性だった。
「いやぁ、すいませんなぁ。この子だちだらぁ、久々のお客さんに興奮しでしまっで」
大人しくなった魔獣たちの間を通って、女性がこちらに歩み寄ってくる。
それにしても、凄まじい訛りであった。
しかし同時に、近付いてくる気配で分かった。この女性は――。
「あれ? ……あんだ、カヴォロス様でねぇか!?」
――この女性は、魔族だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます