Chapter 10-4

 吹雪の中、雪を踏みしめて進む。

 進めば進むほど山道は険しさを増していっているように思える。


 一行は魔王城跡を出発し、三日目。この死の山と呼ばれる雪山への挑戦を試みていた。

 メンバーはカヴォロスを筆頭にララ、エルク、ベルカの四名だ。カヴォロスとしてはデビュルポーンにもついてきてもらいたかったが、魔王城跡の守りが薄くなること、彼自身が「姉御とは相性が悪いからねぇ」と断ったこと、ララが彼には残ってもらった方がいいと言った為、このメンバーでの登頂となった。

 ベルカが選ばれたのはエルクの推薦によるものである。彼の率いる錬鉄騎士団で、最も山や自然に慣れているのが彼だという事だった。エルクが推すのならばカヴォロスとしても異論はない。やたらとデビュルポーンも彼にはお墨付きを与えていたので安心だろう。


 目指すのは、山頂近くにあるとされる魔狼族の里。正確にはその跡地にして、四魔神将アヴェンシルが封じ込められているはずの永久凍土だ。


 ホワイトアウト寸前の中、先導するのはベルカだ。彼はやがて、前方に洞窟を発見したと声をかけてくる。


 しばらく進めば、ベルカの言う通りの洞窟があった。中には灯りが灯されており、人が入るのに適した空間となっていた。

 更に洞窟は上の方へと続いており、どうやら抜け道となっているようだった。


「明らかに人の手が加えられていますね」


 先行して洞窟を調べてきたベルカが言う。


「まさか、この先に人が住んでるのか?」

「可能性は高いです」


 カヴォロスの問いに、ベルカは頷く。まさか、この極寒の地に住まう者がいるのか。しかしてそれは果たして人間なのか、それとも。


「とりあえず、一旦ここで陣を張りましょう。休息にはちょうどいい。ララ殿、大丈夫ですか?」


 エルクの声掛けにララは頷いた。彼女も身体は結花のものなのによく付いてこれると、カヴォロスは感心する。ちなみにだが結花の意識はまだ目覚めていない。


 四人は分担してキャンプの準備をした。テントを張り、食事の用意を始めていく。カヴォロスもここしばらくで随分手慣れたと思っていたが、それでも驚くのはベルカの手際の良さだ。だれよりもテキパキとキャンプの設営を終え、料理もこなす。キャンプに関して言えば、この数日は快適と言ってよかった。


「できました」


 ベルカの作った野菜スープに、パンを浸して食べる。非常に美味い。

 食事を終えると、見張りを一人立てて就寝する事にした。


 今はベルカの番だ。カヴォロスはなんでも淡々とこなす彼の事が気になり、起き上がってテントを出た。


「大事ないか」

「竜成殿……。はい、特に異常ありません」

「そっか」


 カヴォロスはベルカの隣に腰を下ろした。


「こうして話すのは初めてだな」

「そう、ですね。なにか御用ですか?」

「いや、用ってほどでもないんだが……。お前の事を聞いてみたくなってな」

「自分の事を……ですか」


 カヴォロスは頷く。焚火に適当な木の棒を放る。


「しかしすごいな。その歳でこれだけなんでもこなせて。っていうか、今いくつなんだ?」

「今年で十四です」

「やっぱりそれくらいだったか。ホントすごいな。俺が十四の頃なんか……うん、あまり思い出したくないな」

「そうなのですか」

「ああ、とにかくあの年の男子ってのは大体イタ……いや、俺の事はいいんだ。エルクとはどうやって出会ったんだ?」


 この問いに、ベルカは顔を上げた。上を見上げて話し始める。


「団長とはそうですね。森で狩りをして暮らしていた所に現れて、そのまま小姓に迎え入れられました」

「森で? 一人でか」

「はい。両親は早くに亡くしました。それ以来ずっと一人で暮らしていましたが、ある時、私の噂を聞きつけた団長がわざわざ私に会いにやってきたのです。ですから今の両親は、私を養子として受け入れてくれた義理の家族です」

「そうか……。悪いな、話しにくい事を」

「いえ。孤児なんて珍しくはありませんから。特に、魔族の子孫ともなれば」


 魔族の子孫。なぜ、女王エレイシアはあのような暴挙に及んだのか。


「見張りを変わろう。ベルカは休んでくれ」

「いえ、竜成殿こそ」

「俺は大丈夫だ。ほら、明日もあるんだ。休めるときにしっかり休め!」


 カヴォロスはベルカの背を叩く。それでベルカは渋々、といった様子でテントに向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る