Chapter 10-2
「アヴェンシルを仲間にしにいきましょう」
そしてそれは、ララのこの一言から始まった。
魔王軍に四魔神将在りと言われた、最強の魔族がいた。その実力は魔王ダルファザルク以上とも噂され、軍内の者たちからは羨望の眼差しを向けられ、王国軍の人間からは絶望の代名詞として広く知れ渡っていた。
四魔神将カヴォロス。魔龍族と呼ばれる、魔族の中でも突出して高い武力を誇る種族の長であった男だ。龍の鱗に覆われた肉体は、剣であり鎧でもあった。故に彼の戦い方は徒手空拳を置いて他に在らず。無手こそ最大の攻撃にして防御であり、これを打ち破ったのは勇者ララファエルただ一人であった。
四魔神将アヴェンシル。魔狼族において氷姫と呼ばれた女傑であり、四魔神将の紅一点である。冷気を自在に操り、獰猛な銀狼たちを数多く従えた。その身体は常に絶対零度であり、何者も彼女に触れる事はおろか、近付く事すら許されないと言われたが、聖剣の力の前に敢え無く命を落とした。
四魔神将デビュルポーン。彼の本当の姿を知る者はいないとすら言われた、変装魔術の達人だ。魔霊族という誰一人知らない種族の出を自称した彼は、暗殺や諜報活動を主な役割としていた。しかし聖剣の勇者を相手には彼の暗殺術は通用せず、返り討ちにあった。
最後に四魔神将グラファムント。魔王ダルファザルクは魔人族と呼ばれる種族であり、グラファムントはその同族だった。膨大な魔力を持つこの種族の中でも、彼は爆発的なまでの高い魔力を誇っていた。非常に好戦的であり、魔王軍の尖兵としての役割を買って出ていたが、その為か勇者に真っ先に倒されたのが彼である。
「……と、歴史書の内容を掻い摘むと、こんな感じかしら」
食事を終え、テントに戻ってきたララは本を手にそう語り始めたのだ。
四魔神将カヴォロス本人としては、聞かされた内容になんとも微妙な気分になる。当時の彼が聞けば怒り狂っていたかもしれないが、今の彼は宮木竜成でもある。それにこれは、今からすれば500年も前の話でしかない。死んだ身である彼が何を言ったところで仕様もないので、突然自分の武勇伝を聞かせてきた勇者ご本人を顰め面で見るに留めた。
残りの四魔神将――つまりはカヴォロスとデビュルポーン以外の二人。アヴェンシル、グラファムント。彼らを探すと言ったララに、当てはあるのかと問うたところ、彼女はこの話を始めてきたのだ。
「なんの関係があるのか、って言いたそうね」
「いや、当たり前だろ……」
嘆息するカヴォロスへ、ララは続きを話し始める。
「もちろん、これ自体にそんなに意味はないわ。むしろ当事者の私たちからすれば、今はそういう風に語り継がれているのねくらいの感想しか出てこないわ」
「まあ、そりゃそうだ」
「大事なのはここからよ。私たちはこの歴史の当事者。だから、ここに書かれていない事、書かれた内容の不備を私たちは知っている」
確かに。今しがた聞かされた内容に現実との齟齬があると、カヴォロスは気付いていた。
だがそれと、仲間にしにいくというのはどう繋がるというのか。
「ひとつ、言っておくわ。私は四魔神将を全員倒したわけではないわ」
「そうか、なるほど……ん? は?」
突然のララの告白に、カヴォロスは目を丸くするしかなかった。
「アヴェンシルには勝ったとは言ってもいいと思うけれど、倒せた訳ではないわ。グラファムントは……あなたたち四魔神将の方が詳しいと思うけれど」
ララの語った内、グラファムントについてはカヴォロスも得心がいった。
だが、もう一人、
「アヴェンシルを倒せた訳ではないっていうのは、どういう意味だ?」
「殺してはいない、と言った方がいいかもしれないわね。私は結局、彼女に近付く事さえできなかった」
述懐するララは、伏し目がちに続けた。
「私は彼女の特性を利用して、永久凍土に封じ込めたのよ」
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