Chapter 9-5

 光は瞬く間に一帯を呑み込み、真っ白な空間に変えてしまった。

 それほどの光を前に目を開けていられた者は皆無で、当然ながら戦闘は一時中断されることとなる。


「これは……! 結花!!」


 カヴォロスは目を瞑ったまま、結花の方へと手を伸ばした。


 ――大丈夫。


 ララの声が聞こえたような気がして、その手が止まった。


 やがて光は収まり、徐々に視界が元に戻っていく。


「はぁっ……、はぁっ……!」


 見やれば、聖剣を手に息を荒げている結花の姿がそこにあった。

 周囲を見渡すと、騎士たちはその場に倒れ伏しており、立っているのは結花を除けばカヴォロスとデビュルポーンだけだった。

 なにが起きたのか。結花が聖剣の力を解放したのか。その剣の輝きは、どこか先程までよりも煌めきを取り戻しているようにも思える。


「旦那、こりゃあ……」

「結花、お前……」


 戸惑いを隠せない四魔神将二人が声を発したところで、周囲の騎士たちが呻き声を上げながら立ち上がろうとしていた。

 カヴォロスとデビュルポーンは再度の戦闘に備えて構える。


「大丈夫」


 結花がつぶやくように言う。

 立ち上がった騎士たちは一様に辺りを見回し、混乱している様子だった。


「竜成殿、ここは……」


 エルクが問うてくる。が、彼は途端に頭を押さえて呻く。そしてハッと何かに気付いたように目を見開き、


「申し訳ございません! 女王陛下の命とは言え、私たちは何を……!?」


 カヴォロスの前に跪き、深く頭を下げたのだった。


「エルク、顔を上げてくれ」

「ですが……!」

「いいから」


 と、カヴォロスはエルクに顔を上げさせる。魔力を集中し、彼の目を見やる。

 そこにあった紫の揺らめきは、どこかに吹き飛ばされてしまったかのようにもはや見られなかった。他の騎士たちも同様である。

 これはまさか。結花を見やる。彼女はカヴォロスに微笑み、頷いた。そしてそのまま、気を失って倒れてしまった。


「結花!!」


 カヴォロスは慌てて彼女に駆け寄り、その身を抱き起こす。


「旦那、とりあえず早くここを出ねぇかい? その子を寝かす場所も探さねぇと」

「そうだな、行こ――」

「――こっちだ!!」


 と、そこに後方から新たな騎士の声が聞こえてきた。


「くっ……!」


 先の光が目印になってしまったか。こちらに駆け込んでくる騎士たち。彼らは剣を構えてカヴォロスたちと対峙する。


「待て! 彼らは敵ではない! 剣を下ろせ!!」


 エルクの声がこだまするが、やってきた騎士たちにその声を聴く様子は微塵も見られない。

 どころか、エルクやボルドーたちも敵と見做したか彼らにも剣先を向けた。


「何を……!?」

「裏切り者は斬れと陛下からのご命令です」


 そんな騎士たちの前に、一人の大男が立ちふさがる。

 彼は腕を組み、仁王立ちで騎士たちに相対する。


「行きたまえ」

騎士サーボルドー!?」

「ここは我ら雷槌騎士団にお任せいただこう。錬鉄騎士団は竜成殿とともに行くがいい」

「いや、それならば我らも」

「ならぬ。陛下のお心を変えることができるのは騎士サーエルク、貴殿だけだ。貴殿がここで散ってはならん!」


 騎士たちが斬りかかってくる。それを雷槌騎士団の騎士たちが剣で受ける。


「さあ、行け!!」


 ボルドーに促され、カヴォロスたちは駆け出した。

 最後まで渋っていたエルクも、部下たちが引きずるようにして連れ出す。


騎士サーボルドー! 死ぬな!!」


 エルクの言葉に、ボルドーは肩越しに頷いて答えた。

 それを後目に、カヴォロスたちは地下水道の出口を目指す。


 こうしてカヴォロスたちは、王都を後にすることになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る