Chapter 9-4
「そこをどいてくれないか、エルク」
「竜成殿でもそれはできません。女王陛下のご命令ですので」
カヴォロスはエルクの目を注意深く観察する。その目には何やら、紫色に揺らめくどんよりとしたものが見え隠れしていた。
彼を含めた聖騎士たちは、何らかの方法で操られている。その考えに間違いはなさそうだった。
「ならば仕方あるまい。押し通らせてもらう」
カヴォロスは腰を落として構えた。もちろん、背後の結花を庇うように。この状況に陥ってもララが出てこないのは何故かわからないが、彼女には彼女の考えがあるのだろう。今はとにかく、結花を護ることに集中すべきだ。
「四魔神将カヴォロス、推して参る」
地面を蹴る。繰り出した掌底は重く鋭い。それはエルクもよくわかっている。正面から受けようとはせず、身を逸らして回避し反撃に転じようとする。
だが彼が回避を選ぶことはカヴォロスとて承知の上。すぐさま掌底を繰り出した腕を引き、その反動のままに回し蹴りを放つ。
対しエルクは更に身をかがめ、蹴脚を回避。手にした剣で逆袈裟に斬りかかる。
「ぬぅっ……!!」
初撃を命中させたのはエルクだった。会心の回し蹴りを回避されたカヴォロスは体勢を立て直せず、エルクの繰り出した一撃を避けることは叶わなかった。
しかし漆黒の鎧に身を包んだカヴォロスの身体は、吹き飛ばされはするものの傷を負うことはなかった。
流石は赤羽サツキに餞別として渡された代物。見事な防御力である。だがこの鎧の真骨頂はそれだけではない。
追撃を仕掛けてくるエルクが突きを繰り出してくる。カヴォロスは両手を組み、そのまま振り上げた。そしてエルク渾身の突きがカヴォロスの胴を貫くその寸前で、カヴォロスは両腕を振り下ろす。
これにより、側面から殴りつけられた刀身はそこから真っ二つに叩き折られる。目を見開くエルクに、すぐさまカヴォロスは腹部へと殴り掛かる。
直撃し、堪らず後方へ殴り飛ばされるエルク。追撃に入ろうとするカヴォロスだったが、エルクの後方から飛来するそれに瞬時に気付き、掴み取る。
それは一本の矢だった。見やれば、エルクの背後にはこれを放った少年――ベルカの姿があった。瞠目するカヴォロス。その隙をエルクが見逃すはずがない。
彼は折られた剣をすぐに背後の騎士のものと取り換え、勝負を決するべく飛びかかる。
この兜割りを避ける術は、今のカヴォロスにはなかった。そして兜を脱いでいた頭部は、今の彼にとって唯一むき出しになっている急所である。
「くっ……!!」
避けられない。エルクの剣が命中する――その直前だ。
「竜成君!! ――もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!」
結花の叫び声がこだまする。
瞬間、聖剣が白く眩い光を放った。
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