Chapter 9-3

 そのあとを騎士たちが追いすがる。これに対してカヴォロスたちは逃げの一手だ。


「団長、こちらです!!」


 そこへ再び前方から迫る騎士団があった。

 その軍勢の中から前に出てくる男を見て、カヴォロスと結花は驚愕に顔を歪める。


「エルク……!!」

「ここから先へは通しません」


 足を止める。必然、後ろから迫る騎士たちにも追いつかれてしまう。


「さて、観念していただきたいものですな」


 そして後ろからは、天井に頭が届きそうな大男――ボルドーが姿を見せる。


「あれま。団長クラスがここまで出張ってくるとはねぇ」

「デビュルポーン、後ろを頼めるか。貴殿には得意な手合いだろう?」

「よくご存じで――ッ!」


 と、デビュルポーンの姿が消えた。すると次の瞬間、彼の姿はボルドーの眼前にまで迫っていた。


「ぬぅっ!!」

「おっと! こいつを止められるとはねぇ!」


 腹部を狙ったデビュルポーンのダガーを、ボルドーは間一髪のところで手甲で弾く。

 デビュルポーンはすぐさま、返す刃で斬りかかる。狙いは首――いや。デビュルポーンは寸前で刃を退く。既に防御態勢に入っていたボルドーの、がら空きになった足を払う。


「痛って!!」


 しかし無理矢理に繰り出した足払いは脛当てに阻まれて効果がなかった。

 逆に思わず声を上げてしまったデビュルポーンは、一旦身を退いて体勢を立て直す。


「難しいねぇ、急所を狙っちゃいけねぇってのは!」


 再度地面を蹴る。ボルドーの前には彼の部下と思われる騎士が立ちふさがる。これを瞬時に組み伏せると、更に前に出ようとした騎士を、ボルドー自身が制する。


「待て! 彼の相手は吾輩に任せてもらおう」

「しかし……!」

「そなたらでは相手にならんと言っている」


 ボルドーの圧にひるんだ騎士たちが、おずおずと身を退く。


「彼を離してもらえるかな?」

「……ま、いいか。ほら兄ちゃん、行きな」


 組み伏せられていた騎士は解放され、ボルドーの後ろに回った。


 改めて、デビュルポーンとボルドーは正面から相対することとなった。


 デビュルポーンは両手にダガーを。ボルドーは無手にて構える。

 雷槌騎士団・団長・聖騎士ボルドー。聖騎士髄一の体躯を誇り、その身より更に巨大な戦斧を片手で軽々と振るう膂力を誇る傑物だ。この場にはその獲物は持ち込めなかったようだが、彼はその膂力を活かした格闘術の達人でもある。無論、魔力の強度も高く、先のカヴォロスとの一戦では使わなかったようだが、ここでは遠慮なく使ってくるだろう。


「死んでも文句言いなさんなよ」

「やれるものならやってみたまえ」

「言うねぇ!」


 再度、両者は激突する。

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