Chapter 9-2

 地下水道は灯りこそともされているが薄暗く、舗道のように整備が行き届いているわけでもないため歩きづらい。そして当然、変わり映えのない道が続くため非常に長く感じる。


「結花、大丈夫か?」

「うん、私は大丈夫」

「いやしかし、こうして歩いてみると長いもんだねぇ」


 カヴォロスたちはこの地下水道を歩き続けていたが、一向に出口は見えない。


「ごめんなさい、私が歩くのが遅くて……」

「気にしなさんな。この道が無駄に長いのがいけねぇ」


 堪らず謝る結花に、デビュルポーンはひらひらと手を振って応える。

 本来ならカヴォロスが結花を背負って行ければもっと早くここを抜けられるはずだったが、天井が低くそれも難しい。今は三人並んで歩いているが、カヴォロスは一番後ろを歩いている。


「っていうか旦那、その鎧は脱がなくていいのかい?」

「ん? ああ、そういえばそうだな」


 気付けばカヴォロスは漆黒の鎧を着たままだった。兜ぐらいは脱いでおくかと、カヴォロスは兜を外す。

 心なしか息をしやすくなった気がする。


「しかしあんたがそんな鎧を着るとはねぇ。それで戦いになったら、旦那の本領が発揮できないんじゃないかい?」

「いや、実は――」

「いたぞ!!」


 突如周囲がざわつく。前後に伸びる地下水道の両奥から、何人もの騎士たちがこちらへ駆けてくる。


「挟まれたか!」

「見つかっちまったな……。さぁて、どうする旦那」


 騎士たちに挟み撃ちにされ、カヴォロスたちは身構える。

 どうする。騎士たちは明らかに魔術によって操られている。そんな彼らを殺すわけにはいかない。


「仕方ない。出口まで強行突破だ」

「殺さずにかい? なかなか難しいこと言うねぇ」

「やるしかないだろう。後ろは任せろ!」

「あいよ!」


 デビュルポーンは両手にダガーを構え、正面の騎士たちに突撃した。

 カヴォロスは後方から斬りかかってくる騎士の剣を、無造作に掴んでへし折る。彼を蹴り飛ばしてデビュルポーンに続く。


「結花!」

「う、うん!」


 結花の手を取り、共に走る。

 デビュルポーンはカヴォロスの目にすら留まらないほどの速度で地を駆け、騎士たちをなぎ倒していく。


「す、すごい……!」

「奴はああ見えて魔王軍最速の男だからな」


 四魔神将デビュルポーン。しかしその役割の性質上、魔王軍でも彼の姿を知る者はごくわずかだった。そのため彼の実力を疑問視されることも多かったが、彼を知る者からは最も相手にしたくないと評されるほどの実力の持ち主である。


 倒され気を失った騎士たちを後目に、カヴォロスと結花は通路を駆けた。

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