Chapter9 地下水道を抜けて

Chapter 9-1

 女王エレイシアの掌で燃えているのは、紫色の炎だった。

 王都を包むものと同じそれは彼女の魔術によるものである。掌の炎を消し、彼女は玉座に深く腰掛ける。


「ごほっ……!」


 と、彼女は大きく咳き込んだ。口元を押さえた手を見やれば、そこには咳とともに吐き出した血が付着していた。


「女王陛下!」

「……いえ、大丈夫です」


 そのエレイシアの様子に、彼女の元へ駆け寄ってきたのは聖騎士ミハイルだった。彼はエレイシアの背に手を当て、優しくさする。

 が、そんな彼を手で制し、エレイシアは息を吐く。


「それより、なにか報告があるのでは?」

「……はっ」


 ミハイルは下がり、エレイシアの前に膝を突いて頭を下げる。


「四魔神将カヴォロスと勇者を発見いたしました。彼らは現在、地下水道を逃走中です。四魔神将デビュルポーンの手引きによるものだということです」

「そうですか……。彼はやはり、あちらに付きましたか」

「ええ。しかし数は三人。騎士サーエルクならば問題ないでしょう」


 エレイシアは頷く。皮肉なものだ。魔王ダルファザルクの生まれ変わりであるエルクが、カヴォロスたちの追手となるとは。


「わかりました。引き続きよろしくお願いします、ミハイル卿……いえ。敢えてこう呼びましょう」


 エレイシアは口元を歪めた。


「『黒翼機関』のエキスパート・シュラ」

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