Chapter 8-4
「しかしお見事でした、竜成様。脅威的と言えるほどのお力……圧巻でした」
「お言葉、ありがたく頂戴しよう。それで、我らはエルク殿に頼まれて登城したのだが……」
「ええ。では本題に入りましょう。聖剣の勇者とは、世界の危機に際して異世界より召喚される存在です。今回、鬼という世界の脅威を退けて尚、あなた方はここにいる。本来、役割を終えた勇者は元の世界に送還されるのが常にも関わらず、です」
話し始めたエレイシアの言葉に、カヴォロスは頷く。
「つまりこの世界は今も、何者かによって滅亡の危機に晒されているということだな?」
「はい。わたくしもそのように考えております。結花様、それを討つことが今のあなた様の使命なのです」
「今の私の……使命……」
結花はエレイシアの言葉を噛みしめるかのように我が身を抱えた。
現実が重くのしかかる。だが今の結花にはカヴォロスが――竜成がいる。彼女が抱えきれない重荷であっても、それを支えられる存在がいる。かつてのララは独りだった。この世界での仲間はいただろうが、結花と竜成のような元の世界からの縁はなかったはずだ。
カヴォロスが肩に手を置いてやると、結花はその手に自分の手を重ねて表情を少し和らげた。
カヴォロスはエレイシアに問う。
「しかし、鬼以外にこの世界にどのような危機が?」
「それについてはわたくしに心当たりがあります」
なんと。エレイシアの発した言葉により、室内はにわかにざわめく。エレイシアの語る心当たりとは。
カヴォロスも固唾を呑んで続きを待った。
「この世界には現在、とある差別が蔓延しています。それはかつての魔族の子孫たちが受けているものです。彼らは穢れた血などと呼ばれ、侮蔑の対象とされてしまっています。わたくしはこの現状に、女王として異を唱えたい」
カヴォロスは反射的にエルクを見やった。
エレイシアの言った通りの話をカヴォロスに語ってくれたのは、ほかでもない彼だ。エルクはカヴォロスの視線に気づくと、笑みを湛えて頷いた。
「なぜなら、わたくしはかつて、魔の王を夫に迎えたことがあるからです。彼の名はロキ」
その名が出た瞬間、周囲の空気の色が変わった。
重苦しく、まとわりつくような空気がこの場を支配してしまった。
「今の世界は、彼が再び顕現するべき状態にない。そのために、わたくしがこの世界を変革する」
「……つまり、世界の脅威というのは」
「このわたくしです、竜成様……いえ、四魔神将カヴォロス様。かつての魔王ダルファザルクの腹心。魔龍族の長。どうかこの世界を変革するため、わたくしに力を貸してはくれませんか?」
エレイシアの美貌がカヴォロスを射抜く。その眼は魔眼の類か、吸い込まれるような魅力を感じる。
だがカヴォロスは腕で結花の視線を遮りつつ、エレイシアに相対する。
「愚問だな。この身を捧げたのは魔王ダルファザルク陛下がただ一人。そして今のこの身は勇者の剣。貴殿が世界の敵であるならば貴殿を討つ。それだけだ」
「それは残念です。……この者たちを捕らえなさい」
エレイシアの命令にその場の騎士たちが動き出す。エルクまでもがカヴォロスと結花を捕らえようと迫ってくる。
「くっ……! 逃げるぞ、結花!!」
彼らをなぎ倒すこともできるだろうが、自分の意志ではなくエレイシアに操られているだけの彼らを傷付けるわけにはいかない。
カヴォロスは結花を抱え、窓に向かって駆け出した。そのまま窓を突き破り、城外に躍り出る。
二人の身体はそうして城下へと落ちていった。
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