Chapter 8-3

「いやーーーーーーっはっはっは!! まさか片手で押しとどめられるとは! このボルドー、己が身の未熟さを思い知るばかりですな!」


 改めて玉座の間にて相対したボルドーは、朗らかに笑った。

 先ほどまでの高圧的な振る舞いから一転、態度の変化ぶりに苦笑いしつつ、カヴォロスはボルドーと握手を交わす。


 カヴォロスはあれがボルドーの全力・本気であるとは思っていない。今回は単純な力比べに終始したが、彼が魔術を行使すればまた違った展開になるだろう。

 それでも、カヴォロスには負けるつもりなど微塵もないが。


「いつか、そなたの素顔を見てみたいものですな」


「いつか、な。それがいつになるのかは分からないけどな」


 笑い合い、手を離す。それは互いの実力を讃え合うものであったが、同時にまた相見えようという強い意志のぶつかり合いでもあった。


 続いて、ボルドーは結花の前に歩み寄って跪いた。


「勇者結花殿。此度は大変なご無礼、失礼致しました。雷槌騎士団が団長ボルドー、謹んでお詫び申し上げまする」


「そんな……。私は、その。竜成君とは違って本当に全然、何の力もありませんし……」


 それは謙遜というより最早自虐に近かった。

 結花は聖剣を顕現させる。どこにでもありそうな、ありふれた両刃剣だ。ララが持っていたものとも、輪廻の境界でカヴォロスが手にしていたものとも違う。それと比べてしまったからかもしれないが、今はその刀身の輝きはいささか曇っているようにも見える。


「聖剣は、持つ人の成長に合わせて、剣自身も成長するんだって本に書かれていました。だからこの剣は、今の私そのものなんです。だから私は、まだ……」


 何故そんな事を知っているのか――と考えて、遅れて得心する。

 成程、結花が読み漁っていたのは勇者にまつわる本だったのか。もしかしたらあの時、ララが出てこれたのもそのおかげなのかもしれなかったが、今はそれはいい。


 カヴォロスは結花の肩を軽く叩いた。


「今はまだ、ってだけさ。お前が勇者になりたいと思ってるなら、いずれ聖剣もそれに応えてくれる……ってことなんじゃないか? それは」


「勇者結花様。500年前の勇者ララファエル様も、召喚されたばかりの頃は剣も握った事のなかった小娘であったそうです。ですから、あまり気を落とさぬよう。竜成様の仰る通りですよ」


 カヴォロスに続き結花を励ましてくれたのは、他でもない、女王エレイシアだった。


「はい……! ありがとうございます」


 二人の言葉に結花は粛々と頷き、聖剣を消した。


 光の粒となって消える寸前、翳りのあったその刀身には、白銀の煌めきが微かに戻ったように見えた。

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