Chapter 7-5

「竜成殿、結花殿!」


 城門を潜ったカヴォロスたちを出迎えたのは、他でもないエルクであった。


 ミハイルの先導で、カヴォロスたちは城の門前へ辿り着いた。小高い丘の上にある城へは、長い階段を上らなければならなかった。そして辿り着いた門の前には堀池があり、跳ね橋が掛かる事で通行を可能にしていた。


 カヴォロスたちが跳ね橋を渡り、門を潜ったところで出迎えにやって来たのがエルクだったという訳だ。


「お二人とも、ご足労頂きありがとうございます。騎士サーミハイル、卿にもお手数お掛けしました」


「いやいや、感謝には及びませんよ。それよりも騎士エルク。お二人にご登城頂いたのは、やはり」


「ええ。玉座の間にて、陛下がお待ちかねです」


 平時と変わらぬ様子で、エルクはミハイルとともにカヴォロスたちを先導する。そう、平時と変わらぬ様子でだ。


「あ、あの、エルクさん」


「はい、結花殿。いかがなさいましたか?」


「その……。竜成君の恰好なんですけど……大丈夫、ですか?」


「ん? ああ、問題ありませんよ。陛下は寛大なお方ですから、脱げない事情があるとご説明頂ければ不問にしてくださると思います。私も微力ながら口添え致しますので、ご安心ください」


 エルクは結花を安心させるべく微笑んだが、彼女が言いたいのはそういう事ではなかった。

 確かに、カヴォロスがここで兜を脱ぐ訳にはいかない。いくら現国王が混血に理解があるとは言ってもそこは王の御前。他にも多数の人間がいる前で、カヴォロスがその姿を晒せば大混乱に陥る。そうならないよう、兜を脱がずに済むよう取り計らうとエルクは言っているが、そうではなく。


「あ、いえ、そうじゃなくて……。ちょっといいかしら?」


 彼女はスッと前に歩み出ると、エルクの腕を掴んで通路の脇に引き寄せる。


「……あなた、あの鎧なんとも思わないの?」

「……もしや、ララファエル殿?」

「……いいから答えなさい。あなたはあの禍々しいにもほどがある鎧、センスいいと思う訳?」

「……え? はい、大変素晴らしい意匠だと思いますが」

「……そう、ありがとう。あなたがダルファザルクの血族で生まれ変わりだって事がよく分かったわ」


 そんな事をひそひそと言い合って、カヴォロスたちの元へ戻る。何を言っているのかはカヴォロスやミハイルには聞こえなかったが、カヴォロスはララと結花が瞬時に入れ替わっている事を見抜いて、器用だなどと見当違いの事を思うのだった。


 ともかく。カヴォロスたちは階段を上がる。その先にあったのは、およそ10メートルに達するであろう巨大な扉であった。建物内にこれだけ大きな扉がある事に、結花は相当驚いた様子だった。

 カヴォロスとしても、魔王城ですらここまでではなかったなという気持ちで少々呆気に取られた部分があった。魔族と言うのは多種多様だ。カヴォロスのように人間とそう変わらない背丈の種族も多いが、単純に大きな扉でなければ潜る事すらできない巨躯を誇る種族もいた。


 しかし、人間が通る為にこれだけ大きな扉が必要だろうか。となればこれはやはり、その権威を示す為のものなのだろう。


「圧巻でしょう。まあ、我々からしてみれば開けるのが大変なだけなのですけれどね」


 ミハイルの言葉に、カヴォロスはそんな事を口走っていいのかと思ったが、エルクや扉の前の兵士たちも、全くその通りだと笑うばかりだった。


 先ほどエルクは寛大な王だと言っていたが、配下の者たちがこんな会話をしても許されるほどなのか。なるほど、謁見とあってはカヴォロスとしても多少なりとも緊張はあったが、これならそこまで気張らずとも済むように思えてきた。


 しかし扉が開き始めると、まるで気を緩め過ぎないようにと言わんばかりにエルクが声を掛けてくる。


「では、ここからはご静粛にお願い致します。我らが国王陛下、エレイシア女王の御前にあらせます」


 開いた扉の先、玉座に座していたのは女性だった。

 長く、透けるほどに輝かしい金の髪を持つ、線の細い美女であった。

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