Chapter 7-3
「――り君。……竜成君」
「ん……?」
か細く、しかし確かに自分を呼ぶ声に、カヴォロスは目を覚ました。
「おはよう、竜成君」
「ああ……結花か。おはよう」
傍らにいた少女に挨拶を返し、カヴォロスは上体を起こす。身体はだいぶ軽い。調子はかなり戻ってきたとみてよさそうだろう。
手を組み、腕を伸ばす。そうしてストレッチを繰り返しながら、ふと結花を見やる。彼女はどこか嬉しそうにカヴォロスを見つめていた。
「ん? どうした、結花」
「もう、大丈夫みたいだね」
「ああ、おかげさまでな。ずっと看ててくれてたんだろ? ありがとな」
カヴォロスは結花の頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。
くすぐったそうに、しかししげしげとそれを受け入れる結花は、そのまま口を開く。
「私とララさんの区別、すぐに付けられるんだね」
「そりゃあな。何年お前と一緒にいると思ってるんだよ。むしろ付き合いで言ったら、あいつよりお前の方が長いからな?」
僅かに三年弱という短い期間、しかも彼らは敵同士だった。死闘を演じたという意味ではある種濃密な間柄とも言えたが、それだけだ。
対して竜成と結花は、幼い頃から家族同然に育ってきた。兄と妹、もしくは姉と弟。そう言い切ってしまってもいいほど、一緒にいるのが当たり前となっていた彼らは、遂には同じ大学に通うに至っていた。周囲からは夫婦扱いされて茶化される事も多かったが、その度に否定してきた。
何故か、は竜成自身にもよく分かっていない。正直な所、茶化されて嫌だった訳ではないし、結花も満更ではなさそうだという事には気付いている。竜成もまた、結花とそういう関係になるのは至極自然であるように感じていたし、結花がいいとすら思っていた。
が、結局こうして、二人の関係は平行線のままだった。互いに気持ちが通じているように感じた瞬間も多々あったし、そういう雰囲気になった事すらあった。だというのに、彼らの関係は全く変化がなかったのだ。
「よし、外に出るか。エルクからも城に来てほしいって言われてるしな」
考えても仕方ない、とカヴォロスは結花の頭から手を離し、立ち上がる。結花は少々名残惜しそうな表情を見せたが、気付かなかった事にする。
「あ。でもそのままで出ちゃったら……」
結花の心配げな声に、カヴォロスは殊更に真面目な表情で答える。
「大丈夫だ。ちょっと着替えるから、外にいてくれるか?」
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