Chapter 7-2

 ララが返事をすると、大きな音を立てないよう配慮したのか、ゆっくりとドアが開く。


「失礼します」


 声量を抑えた入室の言葉。現れた金髪の美丈夫の姿に、カヴォロスは目を見開いた。

 そしてそれは、かの美丈夫も同様であった。


「エルク!」


「カヴォロス殿! お目覚めでしたか!」


 歓喜の声を上げ、エルクは真っすぐにカヴォロスの元へ歩み寄り、膝を付いて頭を下げた。


「ご無事で何よりです。このエルク、我ら錬鉄騎士団を代表して礼を申し上げます」


「あ、ああ。俺の方こそ、ここまで運んでくれてありがとう。……あ、いや、それよりだな。お前の方こそ無事だったのか」


 カヴォロスの疑問に、エルクは腕を上げてみせる。


「ええ。この通りです。なんともありませんよ」


「そうか……」


 カヴォロスは息を吐く。どこか全身の力が抜けていくような感覚があった。


「けど、一体どういうことなんだ? あの時、お前は確実に死んでいた。そしたらお前の身体がいきなりダルファザルク陛下に変わって……」


「私が説明するわ」


 二人を見守っていたララが、ここでようやく声を発した。


「答えは、簡単に言えば聖剣の力によるものよ。カヴォロス、あなたと同じなのよ」


「じゃあ……」


「ええ。彼、エルクは魔王ダルファザルクの子孫であり、生まれ変わりなの」


 ララァの言葉に、エルクは困ったような笑みを浮かべた。その意味がカヴォロスには分からないまま、ララの説明は続く。


「聖剣によって魔王ダルファザルクの存在は浄化され、人間として転生した。そしてエルクの死の間際、聖剣の影響で魔王の力が覚醒した……というところかしら。でも魔王の力が強大すぎるせいか、今は彼の力と人格は眠りについているようね」


「……済みません。せっかく、あなたの主君と再会できたというのに」


「いや……」


 カヴォロスは何というべきか言葉が出なかった。


 この世界、この時代に蘇ったカヴォロスにとって、初めてできた友と呼べる存在。それがかつての主君の子孫であり、生まれ変わりでもあった。


 カヴォロスはエルクを見やった。すると彼は肩を竦めて話を変える。


「それより、我々としてはカヴォロス殿にどれだけ感謝しても足りません。我が祖先の力添えもあったとは聞き及んでいますが、やはりこの度の勝利は、カヴォロス殿の存在があってこそ。敵将を単騎で討ち取るという武勇には、騎士団の者たちもあなたを讃えるばかりです」


「いや、俺は辰真との決着に執心させてもらっただけだ。彼奴の従える軍勢には、俺一人では太刀打ちできなかったよ。エルクたちがいてくれなければ、戦いにすらならなかった。こちらこそ、感謝している」


 カヴォロスはエルクに手を差し伸べた。エルクがそれを取り返すと、カヴォロスは腕を引き、エルクを立ち上がらせた。

 向き合う彼らの目の高さが、ほぼ同じになる。


「うん。俺たちにはこの方がいい。お前もそう思わないか?」


「……はい!」


 カヴォロスの言葉に、エルクは破顔した。

 そして改めて、固く握手を交わす。


「それじゃあ、今日はもう休みましょうか。カヴォロスはまだ目が覚めたばかりだし、私も結花をちゃんと休ませないと」


「おっと、これは失礼しました。では私もこの辺りで」


 退室しようとするエルクだったが、最後に扉の前で振り返る。


「此度のご活躍、我らが国王陛下にもお伝えしてあります。快復次第、ぜひご登城いただけませんか?」


     ※     ※     ※


 城に行く件はあなたの方でも考えておいて。

 ララに言われたことを思い返しつつ、カヴォロスはベッドに横になっていた。


 カヴォロスの心情として、登城に問題はない。問題はカヴォロスが街を出歩くこと自体だが、これもある程度は緩和できるものとみている。

 それを見て、ララがどう思うかはまた別の問題ではあるが、流石にそれを今考えても仕方がない。


 カヴォロスが目下、興味があるのは現国王がどのような人物なのかだ。

 あのエルクが深い忠誠と敬意を表す人物。さぞ名君なのだろうと思うのは考え過ぎではあるまい。


 なかなか楽しみになってきたな、とほくそ笑みつつ、カヴォロスは身体を休めるために眠りに就いた。

 謁見か。そういえば、戻ってきてからまだ結花に会っていないな。そんな事を考えながら、カヴォロスの意識はまどろみの中に消えて行った。

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