第1話
“私達、付き合わない?”
同級生の清水絵里から驚愕の一言を聞いた次の日、俺は都内のとある駅で人を待っていた。
「ったくいきなりあいつはいきなり何を言い出すんだっての……」
予想外の事を言われて昨日のクラスメイトとの打ち上げはあまり集中できず、夜に至ってはあまり寝れていない。元々清水のことはいまいち掴みどころのない人間だと思っていたが、昨日の発言は一体何なんだと混乱している。
「今日も今日だ、いきなり前日に集まろうとか」
今日、俺がここにいる理由としては俺を混乱させている当の本人である清水に呼ばれたからである。昨日の“付き合おう”の後、いきなりこっちの予定を聞かずに10時に駅集合と勝手に言うとポカンと開いた口が塞がらない俺をよそに清水はそのまま図書館を出て行ったのだ。おかげで彼女の真意を聞けずに今に至る。
「てか遅ぇよ、人の気持ち知らずに」
「待たせたわね櫻井君」
と後ろから聞きなれた声がした。
「ようやく来たか、何してんだ
ーーへっ?」
散々待たせたのだから文句を言ってやろうと思い後ろを振り向いた途端、俺はそんな変な声を挙げてしまった。
「どうしたのかしら?」
何故ならそこにはすれ違った人達が振り返るような美人が立っていたのである。レースのあしらわれた白いワンピースに淡い緑色のカーディガンを羽織り、艶のあるダークブラウンの髪をセミロングに伸ばし、大きくてつぶらな瞳は俺の方に向いている。
先ほど清水の声がした方向には前述した美人が立っており、信じたくないがあの牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけ、髪を後ろで1つに結ぶという文学少女であった清水と目の前の美人は同一人物のようである。
「お、お前清水なのか……?」
「えぇ櫻井君と同じ高校出身の清水絵里よ」
と俺が聞きなれた清水絵里の声がするが、その声を発する人物が目の前の美人とは信じられない。あの牛乳瓶眼鏡をかけて陰で“図書館の住人”と呼ばれていた女子生徒がここまで変わるものなのかと。
「いやいやおかしくね!? 今のお前どうした!? 昨日から変わりすぎだろ!?」
高校を卒業してわずか次の日にここまで変わるものなのかと俺が慌てていると清水は落ち着いた様子で話す。
「ここで立ち話は何だからゆっくり話せる場所にいきましょ、付いてきて」
「お、おう……」
と俺はよく分からないまま清水のあとをついていくのであった。
集合場所の駅から歩くこと15分……俺は喫茶店にいた。何でもこの喫茶店は清水のお気に入りの場所らしく休日はよく1人で来ているとのこと。
「で、今日俺が呼ばれた理由は?」
目の前に2つのコーヒーが置かれたので本題に入ることにした。
「あら自分が呼ばれた理由なんて分かっているんじゃないの?
ーーそれに貴方も知りたいんでしょ?」
とすました顔で言う清水。今の彼女は見て分かる様にとても美人だ。何かで美人はどんな表情をしても絵になると聞いたことがあるが今の清水はまさにそれである。とても腹立たしいがとても絵になっているのだ。
「はぁ……じゃあ聞いていいだな?」
「構わないわ」
「まずはお前の見た目だ。今のお前と学校のお前が同じ人物だとは到底思えないのだが何故だ?」
こいつの見た目ははっきりいってかなり上位だと思う、だが高校時代の清水は言葉が悪いが地味だった。
「面倒だったから」
「へっ?」
「いや私って美人じゃない? 美人って何もしなくても人が集まってくるのよ」
「……自分で美人言うか普通?」
確かに今の清水は美人なのが、目の前のしたり顔が妙にイラっとくる。
「えぇだって私が美人なのは明らかじゃない。中学生の時に色々あって高校は地域の生徒がいかない高校を選んだってわけ。毎朝起きてわざわざ地味子になるようなメイクをしなきゃいけなかったのが面倒だったわね」
「なるほど……」
そう言えば俺がこいつとの共通点として2人とも同じ学区からの生徒がいないというのがあり、それから話すきっかけだったのだが、まさかそんな事があったとは。なんて思っていると清水は思い出したかのように呟く。
「ちなみにだけど櫻井君があの高校に来たのは?
ーー何か問題起こした?」
「ん訳あるか……俺の当時の成績だと公立の学校が厳しかったから」
「ぷっ」
「……帰っていいか?」
「ごめんごめん、許して」
と笑いながら謝ってくる。先ほどまでの発言から怒りがこみあげてくるが目の前で楽しそうに笑う清水を見て言いかけた文句を押しとどめた。会話自体は高校自体に清水としてしたいた事と同じで、目の前にいるのはいつも図書館で会っていた清水絵里と同じはずなのに妙な違和感。
(クソッ……何なんだよ、この感覚は……やりづらいこの上ない!!)
「あらどうしたのかしら、そんな疲れた表情をして?」
勝ち誇ったような顔をする清水、多分だが俺がそんな表情をする原因を分かっているのだろう。だからこそそんな表情を自信ありげにするのだろう。
「誰のせいだと思っているんだ……」
「美人な私を許して」
「許すか、馬鹿」
……本当に会話の流れは高校のままなのだ。ただ目の前の相手の見た目が違うだけ、それだけなのに今までの様に会話が出来ないのである。会話をしても妙に疲れるというか何というかそれが表情に出てしまっていたようである。
「てか眼鏡はどうした? いつもの牛乳瓶の底みたいな眼鏡は?」
「つける訳ないじゃない。あれ伊達眼鏡よ。あんなの身に付けておけば話しかける人は減るでしょ? まぁそれでも話しかけてきたのが貴方だったんだけどね」
確かに高校時代の清水はあの眼鏡や人付き合いが良い方では無かったので俺以外殆ど話しかける人はいなかった。例外が俺だったという訳である。
「まぁせっかく同じ委員会になったんだから話した方がいいだろうと思ってな。
声を掛けたら意外とウマがあったのだから不思議なもんだ」
最初こそ冷たかったのだがしばらく話しかけ続けていると意外と面白い奴だと判明する。清水も当時を思い出したのか懐かしそうに微笑む。
「本当そうね、話しかけてきた時は鬱陶しいと思っていたのに」
「っておい」
「嘘よ、嘘
ーーこれが私が貴方に“付き合わない?”って言った理由よ」
「はぁ?」
……今のどこに理由があったのだろうか不思議に思っていると彼女は真面目な表情になった。
「正直私は貴方の事を結構気に入っている、男性としても友人としてもね」
「お、おう」
珍しくストレートに言われたので思わず慌てる。
「正直櫻井君と関係性が無くなるのは嫌だったの。でも、卒業時点での私達の関係性は図書館で会ったら話すぐらいの関係。卒業以降も続くような関係じゃなかったでしょ?」
「そうだな」
彼女が言う通り俺達の関係は1年間同じクラスで図書館で会えば会話するぐらい、休日一緒に遊んだりするような関係ではない。多分だが卒業したら消滅する関係だっただろう。
「で色々と考えた結果が昨日の発言だったの」
「色々とぶっ飛びすぎだろ……」
関係性が消えるのが嫌だから普通“私達付き合わない?”とは言わないだろう。しかも清水は頭が良い方だ、俺だと考えられない事も彼女なら他にもっと良い案があったのではと思ってします。かという俺も代替案が思いつかないのだが。
「そうね私らしくないかもね。普段の私ならもう少し上手い立ち回りが出来たと思うわ。
ーーでもこういう関係の始まりもありじゃない?」
「ありなのか……?」
「櫻井君からしてみればいきなり言われたから驚くのも無理はないわね。いきなり図書館で会ったら会話するぐらいの同級生に告白されたのだから仕方ないわ、だからこうしましょうか
ーーまずはお試しで付き合いましょう」
「お試し?」
「そう、お試し。期間を決めてね、デートしたりして合わないと思ったら期間終了の時点でおしまいって感じで」
「そんな事……お前に悪いだろ」
“お試し”とは言葉はいいかもしれないが要するに清水の事が好きかどうか分からない俺に彼女の大事な時間を使ってしまうのだ。彼女の今の美貌なら俺以外にももっと良い男がそれこそ向こうから声をかけてくるだろうに。
だがそんな俺の考えを悟ったのか清水はそんなどこ吹く風のような気にしていない表情だ。
「私は良いのよ、だって自ら言い出したのだから。
ーーさぁ貴方はどうする?」
と俺に向かって片手を出す清水。その手を見て俺は……。
「俺はーー」
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