偽地味子と卒業から始まる恋愛
きりんのつばさ
プロローグ
「今日でここともお別れか」
手に持った黒い筒を見てそう思った。今日は俺が通っていた高校の卒業式である。今日がこの学校の制服を着て全員が同じ場所に集まることが出来る最終日。そのためなのか色々な場所で最後の別れを惜しむクラスメイト達が名残惜しそうに会話をしている。
「櫻井~どこに行くんだ?」
「ちょっと野暮用に」
「クラスの打ち上げには遅れんなよ」
「分かった」
そういう俺こと櫻井司は友達と一度別れるとある人物に会うためにとある場所に向かった。学校中で別れを惜しむ喧騒が絶えない中、目的地である図書館に到着。
今日で高校に来るのが最後なのもあり、その人物とも最後の挨拶ぐらいしておこうと思ったのである。特に約束があったわけではないが、ただ奴ならここにいるんじゃないかという予想である。
「まぁ開けてみるか」
まぁいなかったら帰ればいいと思いながら俺は図書館の扉に手をかけた。扉を開けると外が騒がしい中、喧騒とはかけ離れた静かな空間が広がっている。そしてその静かな場所に最後に顔を見ようと思った人物が予想通りにいた。
「あら櫻井君」
「うぃっす清水」
図書館の椅子に座りながらこちらを見てきたのは清水絵里。牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけ、髪を後ろで1つに結ぶという文学少女みたいな見た目の女子生徒である。俺と彼女は1年生以外は別のクラスにいたのだが同じ図書委員ということもありそれなりに付き合いのある関係だ。
「私なんかと会っていていいのかしら? お友達との会話をしなくていいの?」
「まぁあいつらとはこの後クラスの打ち合わせがあるから後で会えるからな。清水とはクラス違うし、卒業したら会うことが無くなりそうだからな。そういう田中はクラスメイトとは?」
「私が人付き合い悪いの知っているでしょ? 式が終わったら鞄持ってすぐここに来たわ」
「お前らしくて安心したわ」
清水は人付き合いが悪いというかあまり他人と関わりを持とうとしない。彼女のルーティンは朝、教室にくるとイヤホンを耳に付けてホームルームが始まるまで読書を行い、昼休みはチャイムが鳴るや否や図書館に行き、授業が始まる直前まで図書館にいて、帰りもチャイムが鳴るや否や図書館か帰宅する。クラスメイトとの関わりを極力さけるように行動しているのである。
そんな中俺は清水とそれなりに話す間柄であった。1年生の時に同じクラスで図書委員を務めたことや、出身中学や地域からこの学校に進学していないという共通点もあり、他の連中に比べたら話すことが多い。まぁ多いといっても
「そう言えば櫻井君はどこに進学するんだっけ?」
「赤石大学だが、まさかの記念受験で受けたら合格だった大学だ」
「赤石大学って言えば偏差値高めの大学じゃない」
「おいおい、名門の創成女子大に推薦で行った人間から言われると嫌味にしか聞こえないんだが……」
清水が進学する創成女子大学は私立の女子大の中でも最高峰であり、その大学に清水は指定校推薦で合格したのである。うちの高校にその学校の指定校推薦があったのには驚きだが、清水の頭なら推薦じゃなくても普通に行けただろうと思う。俺の進学する大学も私立の大学の中でも高学歴と言われるクラスの大学だが清水が進学する大学よりはランクが悲しいが下である。
「まぁ私優秀だから」
「ストレートだな、おい」
「私だから、ところで確か貴方が在籍するキャンパスは私の大学と近かったわよね?」
「近いというか最寄りが隣駅だな」
しかも隣駅というがお互いのキャンパスはそれぞれ最寄りの駅の間付近にあるので実際は歩いていける距離なのである。しかも彼女がいく大学は学食が美味しいで有名なのだが俺は男性のため入りにくい。
「あら、また貴方と会う可能性があるのかしら?」
「そうかもな、でも今までよりは会う確率は減るだろうな」
「それもそうね」
今まではクラスこそ違うが同じ学校だったので意図せずとも校舎内で会ったりすることもあった。だがこれからはキャンパスこそ近いが、お互い生活リズムが変わってくる。俺が朝から授業だが、彼女は昼からという事もあるし、その逆の可能性もある。
「まぁ会ったら挨拶ぐらいするさ」
「コーヒーぐらいおごってくれてもいいのよ?」
「何でだよ!!」
「……私と会ったことに関しての感謝?」
「俺全く得していないのだがな!!」
「残念」
「何で本気で落ち込んでんだよ……」
なんて言う会話をしていて、こんな会話をするのもある意味今日が最後なのだと思う。もし大学の外で会ったとしてもお互い軽く会釈をして、こんなふざけた会話をせずに立ちさるだろう。そう考えると妙に寂しいと感じる俺がいた。
確かに関わる機会はクラスメイト達に比べたら少なかった。けども図書館で一緒の当番になった日や思いかけず会った時は一緒に話をしていたのでなんやかんやで思い出は結構ある。そんな清水とも次回会う時はこのような会話をしない関係になるのだろう。まぁだけど俺は寂しいと思っていても目の前にいる図書館の住人は絶対そうは思わないだろう。
なんてくだらない会話をしているとクラスメイト達との打ち上げの時間が迫っていることに気づく。
「で、お前はいつまでここにいるんだ?」
「私はもう少しここにいるわ、今帰ったら外がうるさいでしょ」
「確かにな」
彼女らしい返答に頷いていると彼女からも同じ内容に質問を聞かれた。
「櫻井君はいつまでここにいるのかしら?」
「俺はそろそろ行くかな、このあとクラスの連中と打ち上げ行かないとな」
クラスメイトの中でも進学や就職など進路は様々、そんなやつらと馬鹿みたいに一緒に騒げるのは今日が最後だ。クラスメイト全員と親しいわけではないが親しい奴もいたので楽しみたいのである。
「そう
ーーねぇ私達さ」
「ん?」
また思い付きみたいなことを言うのだろうと思い、軽い感じで耳を傾けたのだが彼女から告げられたのは予想をはるかに超える言葉であった。
「--付き合わない?」
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