第3話 代償

「お困りのようですな?」


 あの日の悪魔じゃないか?どうしてこんな時に?

 だが誰でもいい。


「この子を助けてやってくれないか?俺の命でもなんでもやるから…」


「ほう…そんな簡単に言っていいのですか?命は大切にしなければいけま…」


「早くしろ」


「そう言われましてもね…。あなたはこの間の私との取引で最強を更に上回る生命力を得ています。私の力をもってしても殺すことなど出来ません」


「なんとか方法はないのか?」


「そんなに幼女が好きなのですか?このロリ…」


「ぶっ殺すぞ…真剣な話をしてるんだ」


「申し訳ありません。では…このような方法はいかかでしょうか?」


 全く、こいつは…。執事みたいな流暢な口調で話しやがるし…、何を企んでいるのやら…。

 話をまとめると、俺のレベルを1下げれば、この子が助かるようだが。

 そんな簡単で都合のいい話があるか?


「なあゴゼール、俺はうさんくさいと思うんだが…どう思う?」


「すぐ死んでくれい!シャシュショーガミャイン!」


「シャーマインだ!こんなときにふざけるな…。お前こそ舌噛んで死ぬんじゃないか?」


「重い雰囲気をなんとかしたかっただけじゃねえか!?」


「必要ない!それと話聞いてたか?レベルが下がるだけだ」


「いやだっ!オレは…オレたちはっ…最強じゃなければダメなんだっ!」


「ガキか!?LV9999も9998も変わらないだろ!」


 くだらないやり取りをする俺たちを見て、捜索を依頼してくれた少女はもはや、あきらめ顔だ…。


「よしっ、なんだかよく分からないが…その方法で頼むよ、悪魔…」


「承知いたしました。では詳細を…」


 よし、分かった。9000回分の余計な命が俺には与えられている…ということだな。

 そのうちの一回を使って他人の命を救えると。

 この子を抱きしめて生命力譲渡をすればいいんだな…。

 とにかく今はこれが最善策だ。迷ってる暇はない。


「こうだな…」


 膝をついて抱きかかえる。

 幼女の冷たい肢体に熱が戻っていく。

 俺よりも高めの体温が感じられる。


「だあれ…?あり…がとう」


 可愛い…。こっち見てくれてる…。


「満更でもないようですね。やはりあなたはロ…」


「…いい雰囲気を壊しやがって!このクソ悪魔が!」


「や、やめて下さいぃぃぃ~確かに私は悪魔だけれども…そんな力で首を絞められたら…あなた、自分のレベルを分かってるでしょう!?」


「ああ!お前にLV9999にされた事もなあああっ!」


「痛い痛い!分かりました…分かりましたから…!」


「パワーがありすぎて毎日毎日宿屋にも泊まれず野宿生活してんだぞ…!この大馬鹿野郎!!」


「そんなこと言われましても…。あの程度の代償ではそんなに都合よくLV999にはできませんよ…」


「なあシャーマイン、取り込み中悪いが…お嬢ちゃんが話したいってよ」


「ああ…すまない。君も良かったな…。この悪魔のおかげで生き返れてさ…」


「ちがうよ…。おにいちゃんのおかげだよっ!」


「えっ?」


「おにいちゃんが…さっきわたしのためにしのうとしてくれたって…きいたよ?」


「……」


「うれしかったな…ほんとうに、ありがとう!」


「いや、俺は…。と、とにかく君が無事で良かった」


「本当にありがとうございました…!是非お礼を…」


 少女が居住まいを正して俺に話しかけてきた。


「おい悪魔」


「はい」


「お礼だってよ」


「こちらの方は、私にではなく…あなたにお礼がしたいようですが…」


「違う!!お前にだ」


「まあまあシャーマイン、照れるなって!な?いいことしたんだから素直に気持ちを受け取っとけよ」


「…分かった。じゃあ…」


 一言二言やりとりをする姉妹。

 そして俺の前に立つ幼女が口を開く。


「おにいちゃん…わたしとけっこんしてっ!」


「ぶっ…」


 なにを言い出すんだこの子は…。そんなこと言ったらまたこの悪魔まがいが…


「顔が赤いですよ…。すごく嬉しいのが伝わってきます…。ああ…あなたのそんな笑顔、初めて見ました…。やはりあなたは筋金入りの…」


「言わせるかっ!いい加減にしろよ…全く」


「そうそう、一つ言い忘れていました…」


「ん…なんだ?」


「すでにお分かりとは思いますが、レベルが1下がるということは、自然の流れに歯向かい、この世界の因果律に逆らうこと。つまり…あなたはすでにここにはいません」


「は…?」


「僭越ながら私の微力を使い、たった今…最後の別れをしていただこうとしております」


「ちょっ、なに言ってるんだお前…」


「そんなぞんざいな口がきけるのもあとわずか…。いやあ、楽しかったです…あなたとの取引は…」


「……」


「おい!シャーマイン!?お前…影がなくなってるぞっ!?」


 マジかよ…。

 足元を確認する。本当だ。

 目の前が真っ暗になる。

 体が訳も分からず熱くなり、焦燥感で狂いそうになる。

 うああ…。どこで選択間違えたんだ俺…。

 こんなはずじゃ…こんなは…ず…じゃ


「おにいちゃん!?おにいちゃーん…?」


「シャーマイン!おいっ!?しっかりしろ…!」


「では失礼いたします…またお会いできた時にはどうぞごひいきに…」

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俺たちに今必要なのはレベルダウンだ(5000文字程度の短編) 夕奈木 静月 @s-yu-nagi

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