第2話 依頼
「失踪?」
「はい…昨日から妹が行方不明になってしまって…」
「…心当たりのある場所はあるのか?」
「おそらく山…だと思います。病気の父のための薬草が足りなくなっていたので…」
「えらいなあ…妹さんってまだ小さいんだろ?うんうん、えらいえらい…」
「お前はちょっと黙ってろ。今すぐ向かうよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
山に入ったはいいが、いきなりの土砂降りか…。
これもおかしな取引をした天罰かな。
「ファイアーレジスタン…」
「や、やめろ!山が吹っ飛ぶ!服なんて乾かさなくても風邪なんてひかないだろ」
全く…。HP9999もあるんだ、病気なんてするはずがない。
あとなんでこんな脳筋馬鹿に魔法が使えるんだよ?おかしいだろこの世界。
「魔物が現れたらいつも通りデコピンで倒せよ?間違っても武器なんて使うんじゃないぞ!」
「分かってる、分かってる。オレ様のこぶしがうなるぜっ!」
「おい!聞いてるのか?おとといお前のグーパンチで崖が崩れたんだぞ!」
二人で左右を注意深く見ながら進む。
当然モンスターに注意など払う必要はない。
完全に人探しの緊張感しかない。山岳を捜索しているレスキュー隊員の気分だ。
「うおわあああ~!」
「おい!何してるんだ!?」
「いや…寝不足で足元が…」
「昨日は十時間くらい寝てたろ!?」
「地面の上だとよく寝れないんだよ…背中も痛いし…」
どれだけキャラに似合わないこと言ってるんだ…。全く。
「なあ…あそこの山小屋でちょっと休まないか?オレ、疲れてき…」
「行くぞ」
「ま、待ってくれぇ~」
…なんのための最強か分かったもんじゃないな。こいつの根性も9999にならないものか…?
まあ俺も人のことは言えないが。
「んっ?あそこ…」
明らかに自然に溶け込んでいない色。真っ白な…ワンピースか?
穢れなき幼女は目を閉じている。歳は…五歳か、六歳か…。体中に擦り傷がある。
「君、大丈夫か?」
口元の吐息と脈を調べる。
「気の毒だが…」
「おい、ちょっと待てよ!そんな簡単にあきらめんのか!?」
「薬草を探して…滑り落ちたんだな。頭を打ってる」
「ちょ、おいっ!」
「かついでやってくれるか?山を下りるぞ」
「なんとかして…生き返らすとか…出来ねえのか!?」
「お前…回復魔法は?」
「いや…無理だ」
「俺にも無理だ。なら、少しでも早く山を降りて…街で誰かに頼む方がまだ可能性はある。そうだろう?」
「あ…ああ。分かった」
雨は止み、街へはすぐに下りられた。
「申し訳ありませんが…」
「ま、待ってくれ…金ならあるから、な?頼むからこの子を…。なんとかしてくれねえか?」
俺たちには楽にモンスターを倒せるおかげで金だけはあるが…。
「この傷は私の力では…。おそらくこの街の誰も助けられないでしょう…」
うつむき、唇をかむ神父。
「はっ…、ローサ!?嘘っ…!どうして…どうしてよおお…ううっ」
依頼主か。気の毒だが…。
いや、待てよ。どうしてあきらめる?
格好悪すぎるだろ俺…。
取引して最強以上になったのに目の前の少女一人助けられない…。
なんだこの感情は…?ひたすら惨めになってくる…。
そして…涙で前が見えなくなって…、
「うわああああああっ!!」
気が変になりそうだ…。
素早く詠唱を終え、手のひらを自分に向ける。
胸の前で光を蓄えているのは正真正銘の最強攻撃魔法だ。
「おい!?どうした?そんなもん自分に向けたら…」
「俺の命を…この子にやるんだよ!」
「頭大丈夫か!?おい!?どうやったらそんなこと出来んだよ!?よく考えろ!!」
確かにそうだ…。でも目の前で泣き崩れる少女を見たら冷静でなんていられなくなる…。
早く、早く手を打たないと…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます