俺たちに今必要なのはレベルダウンだ(5000文字程度の短編)

夕奈木 静月

第1話 取引

「なあ、この先俺たちどうなっていくんだろうな…」


「えっ?シャーマイン…お前、何言ってんだ…このままの勢いで魔王討伐だろうが」


「まあ…そうなんだろうけどさ。最近お前物足りなくないか?」


「なにが?」


「敵だって瞬殺だろ…なんか、やりがいとか充実感がないっていうか…さ」


「いいじゃねえか…。雑魚敵なんかに構ってられねえだろ?」


「…確かにそうなんだけどな」



 俺とこいつ…ゴゼールが二人っきりのパーティーでここまで来られたのには訳がある。

 俺は冒険のある時点で取引をした。

 相手は悪魔を名乗るヨボヨボの爺さん。

 とにかく楽をしたかった。

 雑魚一匹にヒイヒイ言う日々に別れを告げかった。



「おい!オレたち最近一気に力ついてきたんじゃねえか!?」


「ああ…そうかもな。昨日も必死でモンスター倒したんだ…そうなって当然さ」



 ゴゼールは馬鹿で天然だ。

 ある日目覚めて突然異常なまでに強くなってるとか…そんなのどう考えてもおかしいだろ…。

 まあこいつならそうやって何の疑いもなく取引の効果を受け入れるだろうと思った。

 だから俺は悪魔に二人に分散して能力を与えろと注文した。

 結果は上々。

 分散して与えられた力とは思えないくらい個々の能力が飛躍的に向上。

 なにも苦労することはなくなった。

 代償も法外にわずかなもので済んだし…

 あの悪魔まがいとの出会いは本当に俺たちにとって革命的だったな…と、その時は思った。

 だが…



「つまらないな…」


「何が?最高じゃねえか…オレらもうこの世界の頂点だあ!最強だぜえ!がはははは」


「面白くない」


「だから何がだよ?おっ、分かったぞ…お前、オレの方が女の子にチヤホヤされてるって、そう言いてえんだろ?ぎゃははは」


 はあ…もうこいつといるのも疲れてきた…。

 でも、俺と離れて、もし取引の効力が切れたりしたら…。

 こいつの元の力量だと雑魚に瞬殺されるだろうしな…。

 いくらなんでも可哀想だ。


「なあ…もう一度最初からやり直さないか?」


「ん…何のことだ?最初からって…ま、まさかお前…オレの事、目で見てたのかあ~!?い、いや…オレは普通に…女の子が好きなノーマルだから…!!か、勘弁してくれえ~!!」


「馬鹿か?俺たちのレベルのことだよ…。この強さ、おかしいと思ったことはないか?」


「なに言ってんだぁ!?あんだけ雑魚敵倒したんだぜ、レベル上がって当然だろ」


 こいつの「あんだけ」ほど当てにならないものはないな…。

 冒険開始でレベルなんてそうそう上がらないだろう…。


「実は…お前に言ってなかったことがある」


「や、やっぱり…オレのことを、変な目で見て…」


「違う!!どうして急に乙女みたいになってるんだ!?荒くれキャラに全く似合ってないぞ…。お前こそ、俺の事を目で見てるんじゃないのか?」


「……」


「なんで無言!?否定しろよ!ああ…もういい、俺はな…悪魔と取引したんだよ」


「悪魔?」


「ああ…。俺もお前も言い方は悪いが根性ないだろ?」


「おっ、オレはそんなことねえっ!なんだってやるし…」


「まあ聞いてくれ。取引の内容はシンプル。僅かな代償と引き換えにレベルのカンスト…のはずだった」


「カンストって…最高レベルってことか?」


「そうだ。でもまさか俺たち二人とも最大レベル以上にされるなんてな…」


「最大レベル!?オレ…そんなに強えーのか?」


「ステータスウィンドウ見たことないのか?」


「なんだそりゃ?知らねえ」


 ウィンドウを見る方法を教えてやる。


「おお!!すげーじゃねえか…全部6666になってるぞ!ビンゴぉ!!」


「9999だ!!ウィンドウが逆さになってる!あと本来は999が最大値のはずだ」


「おっ…そうか。ぎゃはははは!最強以上じゃねえか、オレ様…ひ~っひっひっひ」


「なあ…頭悪いのもほどほどにしてくれないか…通行人が見てる」


「お、オレは頭悪くなんか…」


「それでな、もう一度悪魔に頼んできちんとLV999にさせようと思う」


「えっ!?なんでだ?このままでもいいだろ!?」


「生きにくくないか?さっきなんて俺、昼寝中に寝返りうったら真横の木が吹っ飛んだんだぞ?全く…あのジジイめ…」


「すげえじゃねえか…お前」


「そのせいでどの宿屋も泊めてくれなくなっただろう?起きてるときならまだしも、寝てる時なんて全く力を制御できないからな」


「有名人だぜ…オレら」


「悪い意味でな。あのジイさん…見つけてとっちめてやらないとな」


 本当にそうだよ…。こんなはずじゃなかった。


「あの…すみません…」


「おっ…なんだぁ、えらくかわい子ちゃんが来たぜえ…」


「…いいからお前は下がってろ。そしていつの時代の言葉だよ…」


「君、どうしたんだ?」


「はい…、実は…」

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