第11話 無層ダンジョンの使い方

 メイは小さいけどダンジョンだ。


 ダンジョン、すなわちそれは地形・・である。


「【地形操作】」


 手のひらに乗るメイに、地形操作を発動する。


 地形であれば、俺は自由に操作できる。


 メイはわずかな光を放ちながら、身体の形を変えた。

 細長く、そして鋭く。


 なぜか質量も増えているが、それは気にしない。


 やがて輝きが収まった時、俺の手には紅蓮の剣が握られていた。


「そうだな、名づけるなら……」

「ギギャァ!」


 異変に気がついたエリートゴブリンが、剣を掲げながら走ってくる。


「無層剣」

「だん!」


 俺に剣術の心得はない。


 だが地形操作があれば、俺の剣は自由自在だ。


「はっ!」


 まだ距離があるのに、俺は虚空に剣を突き出した。

 到底、届く間合いではない。


 ……しかし。


「ギャ……」


 不意に伸びた刃が、エリートゴブリンの腹を貫いた。

 形を変えられるなら、間合いなんてないようなものだ。


 相当に硬いのか、剣を弾いても刃こぼれひとつしない。


「すごい、万能地図に触れなくても、思った通りに操作できる……!」

「だだん〜」


 地面や壁だったらこうはいかない。


 メイが協力してくれているのか……?

 まるでメイと一体化したかのような万能感がある。


 無層剣は思考のまま、縦横無尽に暴れ回る。


「これならミスリルを傷つける心配はないな」

「だん」


 当たり前だ、とばかりに、剣になったメイが言う。

 操作中だから、メイの思考もよくわかる。ご飯壊したくなかったのね……。


 俺がミスリルごと潰そうとした時、焦った理由がよくわかった。


「ギ、ギ……」


 切り傷だらけのエリートゴブリンだが、まだ息があるようだ。


 距離を詰められたら、俺の実力からして負ける。だから遠くから牽制していたのだが、そのせいで処理が遅れているようだ。


「そろそろトドメだ」


 ふらふらのエリートゴブリンに向けて、宣言する。


 以前の俺なら絶対に勝てなかったのに……【万能地図】とメイのおかげで、翻弄できている。


 だがまだ油断できない。

 最後まで遠距離から……。


「メイ!」

「だだ!」


 メイを高々と掲げ、振り下ろした。

 そして──地面に、切っ先を向けて、突き刺した。


「地形操作ッ!」


 メイに対しては、【地形操作】をより正確に、そして思考だけで行えた。


 その応用だ。


 無層剣を地面に突き刺せば、メイを通じて地形操作を使える。


 地図上では潰すくらいしか選択肢がなかったが、エリートゴブリンが弱った今なら……。


「終わりだ」


 エリートゴブリンの足元から、土の杭が伸びて、串刺しにした。


 金属音を響かせて、エリートゴブリンの手から剣が落ちる。


「よしっ! 勝った!」

「だん!」


 元に戻ったメイと、小さくハイタッチした。


 最初は厄介なものを拾ったと思ったけど……可愛いし頼りになるし、素晴らしい仲間だ。


 追放されたばかりだけど、やっぱり俺は仲間が必要らしい。


 英雄譚ではカッコいい英雄とともに、いつだって仲間がいた。

 仲間とともに困難を乗り越えるのだ。夢見がちと言われようと、俺はそれに憧れる。


 メイとなら、俺は英雄になれるかもしれない。


「だだだー!」

 

 俺が達成感に浸っていると、メイの能天気な声が聞こえた。


「……は?」


 視線を向けると、小部屋のミスリルは綺麗さっぱりなくなっていた。


「俺のミスリルは!? どこ行った!?」


 ついさっきまでは山のようなあったのに、一瞬にして一つもなくなった。

 幻だったのかと疑うほどに。


「メイ、なにかしらないか?」

「じょ、じょ〜」

「ぜっったい知ってんな!?」

「じょんじょん!」


 嘘つけ、めちゃくちゃ目泳いでるぞ。


 まさか、全部食べたのか……?

 朝はあんなにゆっくり食べてたのに?


「メイ、今出せば許してやるぞ」

「だん……?」

「ああ、本当だ。もし出さなかったら、二度とメイにミスリルは渡さない」

「じょ!?」


 さっきまでは頼れる相棒だったのに、今は子どものようだ。


 メイはぷるぷる震えながら、涙目になった。どっから涙出てるんだ……。


「じょん……」


 両手をお腹に当てて、ごめん、って感じで頭を下げた。


 次の瞬間……大量のミスリルがメイの腹から溢れ出した。


「うぉおお!?」


 巻き込まれないように数歩下がる。

 そうしている間にもミスリルは噴出し続けて、瞬く間に山を築き上げた。


「おかしい、色々おかしい。どうやって入ってたんだ、それ」

「だん」


 見上げるほどのミスリルの山。

 これで全部なのか、メイは山のてっぺんに立って、手を広げた。


「……まあ戻ってきたならいいか。採掘の手間も省けたし、少しずつ持って帰ろう」


 空の背嚢を下ろし、ミスリルを詰めようとする。


「ん? 待てよ? メイ、これっていつでも出し入れできるのか?」

「だん」

「まじ? なら、メイに収納してもらって、外で出せば一気に持ち出せるな!」

「だん!」


 俺がそう言うと、メイも喜んでまたミスリルを収納し始めた。


 食べているのとはまた違うみたいだ。

 収納しておいて、あとで食べるみたいな機能だろうか。どう見ても体積が合わないが、気にしたら負けな気がする。


「入れたり出したりしても辛くないか?」

「だん」

「なら、たくさん頼むな。また連れてきてやるから」

「だん!」


 全部収納し終えたメイが、嬉しそうに笑う。


 戦えるし収納もできる……すごすぎない?


 エリートゴブリンからも魔石は取れるが、ミスリルよりも数段質が落ちるので放っておく。普通の冒険者にとっては魔物の魔石はメインの収入源だが、俺には必要ない。


 ちなみに、ダンジョン内では生物の死体はしばらくすると勝手に消える。

 ダンジョンが食べてるんだろうな。


「よし、ちょっと早いけど帰るか。残りはまた明日だ」

「だん〜」


 再び階段を上がり、地上を目指す。


 もちろん、ダンジョンを元に戻しておくのも忘れない。


 だれかほかに冒険者がいたら、地図と違って迷子になるかもしれないからな……。

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