第10話 隠し部屋見つけ放題!


 手のひらさいずのサイズのダンジョン、メイとともに下宿先に戻って、そのまま寝た。


 そして翌日。


「だんだ〜」


 起きてーって感じの声と腹部の重みで、目が覚めた。


 動く赤い宝石……メイだ。昨日は暗くて気が付かなかったが、よく見ると部位によって色が若干違う。でもまあ、全体的に赤だ。


 メイは小さな手足をぱたぱたとさせて、俺に衝撃を与えている。


「痛え……石の塊だから結構重いし」

「じょ!?」


 がーん、とメイが仰反る。

 感情豊かすぎるだろ。いつも潜っているダンジョンも、昔はこうだったのか……?

 それとも、ダンジョンのどこかにはメイみたいな本体がいるのかもしれない。


 大人しくなったメイを、そっと横に下ろす。

 立ち上がり、ダンジョンへ向かう準備を開始する。


 窓から外に目を向けると、いつもよりやや早いがちょうどいい時間だった。


 起こしてくれたのは感謝だな。

 昨日は色々あって疲れていたから、昼まで眠りこけていた可能性もある。


「だ〜ん」

「ん?」


 考え事をしていると、下からメイが話しかけてきた。


 手を前に出して、なにかを主張している。


「……? ああ、ミスリルか」

「だん!」

「お腹空いたのか? ほい、あんまりないけど」


 小粒のミスリルを渡すと、美味しそうに食べ始めた。


 一応希少魔石なんだけど……。まあ、また取りに行けばいいか。


 あのダンジョンにはまだまだ隠し部屋があったし……ふはは、今から楽しみだ。


 思わず悪い笑みが浮かぶ。いや、別に悪事を働くわけではないが。


「よし、行くか!」


 メイが食べ終えたのを確認し、家を出る。


「メイはこの中に入っていてくれ」

「だん!」


 腰にポーチを付けて、メイを収納する。すっぽり収まった。


 軽く買い出しをしてから、その足でダンジョンに向かう。


 昨日と同じダンジョンだ。

 街から歩いて行ける距離にある。


 二十層クラスのダンジョンで、ランクCの冒険者としては適正だ。だが、完全に攻略するのはB以上でなければ厳しいだろう。……一般的には。


「さて、さくっと攻略しますか。【万能地図】」


 進化スキルを発動すると、目の前に立体的な地図が展開される。


 ダンジョンの全貌が一瞬で明らかになった。


「一番近い隠し部屋は……五層だな」


 拡大と縮小を駆使しながら、地図を見ていく。


 そして目的の隠し部屋を発見した。思わず口角が上がる。


「普通なら半日はかかる距離か」


 ダンジョン攻略は、日帰りでするようなものじゃない。


 念入りに準備して、数日、長ければひと月ほどもかけて挑むのだ。

 それは、仮に地図を持っていても階層は広く、時間がかかるからだ。


「ま、普通じゃない攻略法なら話は別だ。【地形操作】」


 一層から五層までの地図に、指を走らせる。


 縦に素早く撫でたその場所に、まるで紙をナイフで切り付けたような亀裂が生まれた。


 ──書き換えた万能地図は、現実に干渉する。


「近道の完成だ」

「じょじょじょ!?」


 ポーチから顔を出したメイが、目の前に現れた大穴……五層までの直結ルートを見て驚愕してる。


 俺を見上げ、怯えたようにぶるぶると震えた。


「メイにはやらないよ」

「だん〜」


 メイはほっと息を吐いて、またポーチに潜っていった。そこ気に入ったの……?


「早いとこ取りに行くかな。最初にいろいろ気づいていたら、昨日の時点でもっと持って帰れたのに」


 悔やんでも仕方ないけど、貧乏性なのだ。


 今日は頑張ろうと、穴に降りる。


 階段を作り、魔物が落ちてきても困るので露出した道は塞いでおく。

 危険なダンジョンのはずなのに悠々と階段を降りる。


「命がけのダンジョンも、こうなったらただの散歩だな! こんなに早く五層に着くのは、当たり前だけど初めてだ……」


 その速度は何倍かすらわからない。


 真面目に攻略するのがバカらしくなってくるな。


「あった、隠し通路だ!」


 地図を頼りに進むと、目論見通り隠し通路を発見した。


 入口? こう、地形操作でさくっと。


 昨日の隠し部屋と同じように、通路があり、その先に小部屋があるという構造になっていた。


「ダンジョンが魔物説が正解だとすると……ここは、エネルギーを貯めている場所なのか? メイもミスリルを食べてたし……」


 俺が研究者なら、喜んでメイを調べただろうな。

 まあ、俺はあまり興味はないので、歩いている間に暇つぶしで考えるくらいだ。


「……っ、魔物か!」


 小部屋に着くと、昨日とは違い一体の魔物がいた。

 ミスリルに囲まれて座っていたのは……高身長のゴブリンだ。腰には剣を携えている。


「エリートゴブリン……! 十層以降しか出ないはずなのに、こんなところで!」

「ギギギ」


 俺に気が付いたゴブリンが、腰を上げた。


 素早い動きと巧みな剣術で襲ってくる、強力な魔物だ。ただのゴブリンよりも数段強い。


「どうする……。地形操作で潰してもいいが、そうするとミスリルが……」


 かといって細かい操作をしようとすると、素早いエリートゴブリンには避けられてしまうだろう。


 ミスリルはもったいないが……背に腹は代えられない。命を失ったら、ミスリルどころではないからな。


 部屋ごと潰そうと、万能地図に手を伸ばす。


「じょ!」


 しかし、その手はメイの声に止められた。


「メイ?」

「だだん!」


 はい! と手を挙げた。

 メイを手のひらに乗せると、なにやらジェスチャーで必死に伝えようとしてくる。


 その間にも、エリートゴブリンは俺との距離を詰めてくる。


「メイ、今は遊んでいる場合じゃ……」

「じょん!」

「なんだ? そんな身体をピンと伸ばして……あっ」


 そういえば……。さっきの会話を思い出す。

 ダンジョンに大穴を開けたとき、メイにはやらない、と言った。


 それでメイは安心していたが……裏を返せば、メイにもできるということだ。

 ダンジョンは地形操作の対象となる。小さいとはいえ、メイもダンジョンだ。


「そういうことか! メイ、力を貸してくれるか?」

「だん!」

「行くぞ……。【地形操作】」


 メイを乗せた手を前に出して、俺は能力を発動させた。



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