第9話 未発見ダンジョン?

 ダンジョンとはなにか。


 未だ明確に解明されておらず、様々な説が囁かれている。

 その中で、ひとつ面白い仮設がある。


 曰く、ダンジョンは超巨大な魔物である、と。


 現に、発生したばかりのダンジョンは周囲の生命力を吸収しながら、長い年月をかけて段々階層を増やしていくことが知られている。

 そして体内に空間を作り、魔物と共生しほかの動物をおびき寄せることで、勝手に吸収するための生命力が集まるようにしているのだ、と。


 ダンジョン内で死んだ生物は勝手に消滅することからも、そう言われているようだ。


「まあ本当に魔物かはともかく、ダンジョンができると周囲の土や植物が枯れるらしいからな……。ほっとくわけにはいかない」


 誰も気づいていないということは、発生したばかりなのか……?


 地図に表示された場所に、足早に向かう。

 すぐ近くだ。裏路地をさらに進み、ゴミ捨て場として使われている地区に入る。


「ここ、だよな。ガラクタの山だ……」


 地図のマークは、たしかにここを示している。

 さらに地図を拡大し、詳細な位置を割り出した。


「よし、探すか!」


 ガラクタをぽいぽい投げて、地面を目指す。


 この中から一粒の金を見つけろと言われたら御免だが、場所がわかっているなら話は別だ。

 ガラクタをかき分けて、地面を露出させる。


「……? ダンジョンの入口なんてないな」


 入口の形態は色々あるが、少なくとも人が入れるような穴が空いているはず。

 しかし、地図上に表示された場所を見ても、入口になるような穴はなかった。


「でも地図には書いてある……。ん? なんだ、これ」


 地面を見ていると、ふと、地面になにか埋まっているのが見えた。赤い結晶のようなもので、一部だけ飛び出ている。


「魔石か? いや、こんな真っ赤なものは見たことないな……。とりあえず掘ってみよう」


 腰からナイフを取り出して、地面に突き立てる。

 それほど硬い土ではなかったので、あっさりと掘ることができた。刃こぼれしたら困るから、助かる。


 結晶を傷つけないように、周りから掘っていく。

 少しずつ掘り進めると、だんだん姿が見えてくる。


 手のひら大の赤い結晶だ。

 しかし、不思議な形をしている。


 いくつかの結晶が集まって、人形のような形になっているのだ。

 胴体と頭、そして小さいが手足のようなもの。一目みて、生物のようだ、と感じた。


 質感が結晶でなければ、小人かなにかだと勘違いしたかもしれない。


「これは……」

「じょ?」


 声が聞こえた。


「え?」

「だん、じょ?」


 結晶の頭部で、ぱっちりと目が開かれている。


「じょじょじょぉおおおお!?」

「えええええ!? 喋んの!?」


 俺と結晶が、同時に叫び声をあげた。


「だだ、だだ、だだ……」


 あわあわと焦った様子の結晶が、起き上がって(?)逃げようとする。

 四本に小さな手足を懸命に使って、少しずつ移動できるようだ。しかし、その速度は亀の歩み。俺はそっと手を伸ばして、摘まみ上げた。


「じょじょん……」


 俺の手のひらの上で落ち込んだように目を伏せる結晶。……ちょっと可愛いな。


「なんなんだこいつ……。こんな魔物、見たことない」


 魔物と言えど、その見た目は動物に近い。

 たまにゴーレムなどの鉱物型もいるので、これもその類だろうか?


「あ、そうだ、ダンジョンは」


 思い出して、地図を見る。


「……は? 移動してる?」


 地図は目いっぱいに拡大しているから、かなり詳細に見ることができる。

 俺の勘違いじゃなければ、少しだけ……ちょうど、俺がいるあたりに移動していた。


「もしかして」


 俺はガラクタの山から下りて、数歩移動してみる。……手のひらの結晶とともに。


 すると、地図上のダンジョンも俺と一緒に移動した。


「嘘だろ。まさかお前、ダンジョンなのか?」

「じょ、じょー?」


 結晶は白々しく目を逸らした。


 ……わかりやすい。

 というか、結晶なのに表情豊かだな!


 ダンジョンは超巨大な魔物である。

 魔物なのだから、最初は小さくて、成長した結果が今のダンジョンなはずだ、なんて……。聞いたことはあるけど。


 まさか手のひらに乗るほど小さかったとは。


「……ギルドに引き渡すか。どんな危険があるかわからないし」

「じょ!?」


 それに、ダンジョン研究を進める一歩にもなるだろう。

 ……と思ったのだが、ぶるぶると震える結晶を見ていると、ちょっと可哀そうになってくる。というか、ペットみたいで可愛い。


「おい、結晶。……いや、ダンジョンか? ゼロ層の」

「だん!」


 読んだら、元気よく手を挙げて返事をした。


「言葉がわかるのか?」

「だーん」

「お前はここに埋まって、ダンジョンを作ろうとしていたのか?」

「じょ?」

「あいや、違うか。もともとダンジョンだし……ここで、大きくなろうとしていたのか?」

「だん!」

「人間がたくさんいるから?」

「じょじょん」

「たまたま移動したのがここだった?」

「だん!」


 だんとじょしか言わないのに、会話が成立している。


 やはり、こいつはダンジョンで……やがては成長し、十層や二十層もあるような巨大なダンジョンへと姿を変えるのだろう。

 しかし、それは数年後の話ではないはず。ダンジョンの層が増える現象はたびたび報告されるが、それも滅多にない。ダンジョンの成長は、それこそ何百、何千年という時間がかかることは、よく知られている。


 初期の成長スピードはわからないが……すぐに危険になるようなことはない気がする。

 そもそも、ダンジョンは周囲の生命力を吸う危険物であるとともに、ミスリルを始めとする魔石や、貴重な植物、鉱物、魔物素材などを供給する人類にとって欠かせないものだ。


 いまのところ人畜無害なこいつを、排除する必要はないと思う。


「と、いうのは建前で、俺が気に入ったってだけなんだけど」

「だん~」


 照れたように両手を頬に当てる結晶。


 ……うん、危なくなるまでは持っていよう。追放されたばかりで孤独なんだ、俺は。


「だん、だん!」

「うん?」


 結晶が、なにか主張している。

 小さな手で指し示すのは、俺が腰につけた巾着だ。


 中には、いくつかの小道具と、一応残しておいたミスリルの欠片がある。


「これか?」

「だん!」


 ミスリルを見せると、強く頷いた。


 試しに与えてみると、両手で持ってもぐもぐと食べ始めた。


「……ミスリルを食べるのか」


 食べるのもゆっくりだけど、ミスリルは確かに減っていっている。

 体内に吸収されているのか……?

 なぞの生態だ。


「なあ、ミスリルが好きなのか?」

「だん」

「俺に協力してくれたら、ミスリルをあげよう」

「じょ!? だん!」


 こいつになにができるのか知らないけど。


「じゃあ、ダンジョン……だと呼びづらいな」


 ダンジョン……迷宮……。

 軽く考えて、そこまで捻る必要もないだろうと、即決する。


「メイ。俺と一緒に行くぞ」

「だん!」


 新しい仲間ができました。

 手のひらサイズの……。

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