第5話 ex.その頃、迷子パーティは……

 シクレがオークを倒したころ、グランとエレン、エルドの三人は、まだダンジョンの十二層にいた。


「あはっ! 足手纏いがいなくなったから、魔物を倒すのも楽ねえ!」

「そうだな! やっぱあいつなんていらなかったんだよ!」

「清々しい気分ね!」


 大量のオークを殲滅しながら、二人が高笑いする。


 オークたちを食い止めているのは、エルドだ。

 彼のスキルは【守護】。絶対的な防御力を前に、オークたちは突破することができずもがいている。


「おらああああ!」


 グランが横から飛び出して一体を切りつけた。まるで紙でも裂くような手軽さで、オークの巨躯が真っ二つになる。【聖剣術】のスキルは、圧倒的な機動力と攻撃力をグランに与えている。


「カマイタチ!」


 グランがヒットアンドアウェイで飛びのくと、今度は風の斬撃が飛んだ。

 エルドの背後から【風魔法】による攻撃をしたのは、エレンだ。何体かのオークが、まとめて吹き飛ぶ。


「ふはははは! 俺たちは最強だ! 次はBランクだが……Aランクに上がるのも時間の問題じゃねえか!?」

「それどころか、Sランクだって夢じゃないわよ!」

「がはは! そうだな!」


 最後の一体を倒したグランたちは、わかりやすく調子に乗る。

 だが、それも無理ない。事実、彼らはBランクとしても上位の実力を持っていた。


 タンク、前衛アタッカー、後衛アタッカーというバランスの良い組み合わせなうえ、三人とも戦闘においては高いセンスを誇る。それは、冒険者ギルド内でも評価が高い。


 そして、なにより……正確な地図を安定して作り、それを惜しみなく公開するサポーターがいたからこそ、ギルドからの覚えが良かったのである。Bランクへの昇進が決まったのも、よりランクの高いダンジョンでのマッピングを期待されたからなのだが……彼らは、それを知らない。


「エルド、お前もそう思うだろ?」


 黙々とオークを相手していたタンクのエルドに、グランが声をかける。


「……俺はただ攻撃に耐えるだけだ」

「ちっ、つまんねえ奴だな。まあ、お前の仕事をしっかりこなしてくれればそれでいいけどよ」


 昔からエルドは寡黙で、なにを考えてるのかわからない男だった。

 実力は申し分ないし、なにも文句を言わず役割はこなすので、問題はない。


「さあて、そろそろ帰るか! 今日は足手纏いがいなくなった記念に、ぱーっと美味いものでも食うぞ!」

「さんせーい! 私、ステーキがいいわ!」

「おうおう、任せとけ。がははは!」


 エレンが両手を挙げて喜びながら、グランに抱き着く。

 グランは気分をよくしながら、豪快に笑った。


「よし、ほれエレン。地図だ」

「ん? ええ、地図ね。それがどうしたの?」

「どうって……あの雑魚から奪い取った地図があるから、これで帰ろうって言ってるんだ」

「そうね、そうしましょ」

「お、おう……? だーかーら、お前が地図を見るんだよ!」


 イラついた様子のグランが、声を荒げた。


 びくりと肩を震わせたエレンだったが、すぐに顔を赤くして言い返す。


「はあ? 地図なんて読めないわよ!! そんな地味なこと、男がやればいいでしょ!?」

「おいおい、お前魔法使いだろ。こういうのは後衛がやるって決まってんだよ」

「知らないわよそんなの! とにかく、私は地図の読み方なんて知らないから。グランが読めばいいじゃない」

「俺も読めねえよ! こんな細かい線、見たくもねえ」


 グランは地図をちらっと見て、顔をしかめた。


「ちっ、じゃあエルド。お前がやれ」

「……無理だ。簡単な地図ならともかく、ダンジョンは複雑すぎる」

「どいつもこいつも使えねえな!」

「お前もだろう」

「あ?」


 グランが凄むが、エルドはどこ吹く風だ。

 横暴で喧嘩っ早いグランだが、エルドには手を出そうとしない。

 意外な力関係に、エレンはこっそりほくそ笑む。


 とはいえ、仲間割れをしている場合ではない。

 もともと長居するつもりはなかったため、食糧や水は心もとない。

 疲労もたまっているし、早くダンジョンを出たいのだ。


「……まあ適当に歩いてりゃ着くだろ」

「そ、そうよね! 十二層はなんども来ているし、きっと見たことある道に出るわよ!」

「おうよ! ったく、シクレの奴は地図ごときで威張りやがって! 地図なんてなくても俺たちはやれるんだよ!」


 グランは地図をぽいっと捨てて、がははと笑った。


 なお、その地図は冒険者ギルドで売ればかなりの値がつくのだが、売買はシクレにやらせていたので彼らは知らない。


「ダンジョンなんて余裕だぜ!」




 ……しばらく経ったころ。


「ぜえ……ぜえ……まだ階段はねえのかよ……」

「ちょっと、さっきのとこ絶対右だったのよ! あんたのせいよ!」

「あ? こっちに決まってんだろ! ちくしょう、いつの間にかダンジョンの道がかわったのか……?」

「き、きっとそうよね! 私たちが迷うわけないもの!」


 なお、道は変わっていない。

 ただの迷子である。


「早く帰らせろぉおおおお」


 グランの叫び声が響くが、すでにシクレはこの階層にいなかった……。

 彼らの迷子は、まだ続く。

 

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