第4話 地形操作

「さて【サーチ】はどんな能力か……」


 変化はすぐに訪れた。


 開きっぱなしにしていた地図上に、色とりどりの丸いマークが出現したのだ。


 自分の位置を示す△と同じくらいのサイズである。

 ダンジョン全体にも大量に表示されている。


「なんのマークだ……?」


 一番多いのは赤丸だ。

 ダンジョンの通路や小部屋に、いくつも表示されている。そして、よく見ると少しずつ動いているようだった。


 俺のすぐ近くにも一つ、赤丸の表示がある。ちょうど、通路の角を曲がった場所だ。


「見てみよう」


 地図に表示されている以上、なにかあるはずだ。


 俺は少し歩いて、突き当りまでたどり着いた。

 壁で身体を隠しながら、そっと曲がり角の向こうを覗き込む。


「……っ、あれはオークか」


 その姿を目にした瞬間、慌てて身体をひっこめた。


 オーク。人間よりも一回り大きな肉体と、強靭な筋肉を持つ人型の豚の魔物だ。

 十層以降では比較的ポピュラーな魔物で、動きは単調だが身体能力が高いので弱くはない。


 とはいえ、ある程度経験を積んだ冒険者なら危うげなく倒せる相手だ。……俺には無理だけど。


「俺一人で出会ったら、間違いなく逃げる敵だな……」


 正面からやり合えば、間違いなく負ける。

 生きて帰りたかったら、迂回するのが正解だろう。


「ていうか、この赤い丸は魔物の位置なのかな……?」


 改めて地図を見る。


 オークがいた位置には、たしかに赤い丸が表示されている。

 なるほど、サーチは魔物の位置を調べることができるらしい。それも、ダンジョン全体の。


 これがあれば、魔物と一切遭遇せずにダンジョンを進むことすらできそうだ。


「めちゃくちゃ便利だな」


 地図を拡大して、ほかの印も見てみる。

 一番近くにあるのは、緑色の丸だ。俺と同じ十二層で、三つ並んでいる。


「同じ層にいるし、グランたちかな……? 人間は緑色で表示されるのかもしれない」


 ほかにも多種多様なマークがあるけど、詳細を調べるのは追々やろう。

 ひとまず、魔物の位置を表示できるとわかっただけでも朗報だ。


「……わかっちゃいたけど、あいつら、本当に俺を置いて帰るつもりなんだな」


 地図で見ると、俺との距離が明確にわかるので、今さら実感してきた。

 俺は追放されたんだ。


「にしては、階段とは全然違う方向に進んでないか? 十三層への階段からも離れてるし、そっちにはなにもないと思うけど……まあ関係ないか」


 俺はもう、グランたちのパーティメンバーではないのだ。

 これからは関わることもあるまい。


「よし、じゃあ迂回して……いや、せっかくだから戦ってみるか。今後もずっと逃げ続けるのは、やっぱ違うよな」


 俺の冒険者ランクはC。

 規格外のSランクを除けば、A~Fまであるランクの中で上から三番目だ。


 しかしそれは、パーティの功績を評価されただけだ。

 俺自身の実力、特に戦闘面ではCランクに相応しくない。


 ランクは戦闘だけで決まるわけではなく、サポート力が評価されれば同じく上昇する。

 しかし、やはり上位の冒険者は戦闘ができないと話にならない。


 さらに上に行くためには、戦えるようにならないと。


「【万能地図】に進化した俺のスキルなら……」


 もう一度、壁から顔を出してオークを見る。

 幸い、まだ俺には気づいていないようだ。ダンジョンの魔物は、人間を見ると問答無用で襲ってくる。だが気づかれる前なら、一方的に攻撃できる。


「【地形操作】」


 地図上で、オークがいる通路に指先で触れた。


 解放機能の一つ、地形操作(小)だ。小と付くからには小さい範囲しか操作できないんだろうが、通路一つ分くらいなら……。


「ギャッ」


 小さな悲鳴が聞こえた。

 同時に……ぐちゃ、となにかが潰れたような音も。


「……は?」


 俺がしたことと言えば、地図に触っただけだ。


 それが引き起こした現象は……通路を地形を操作して、道を塞いだ・・・・・

 壁と天井を引き寄せて、くっつけたのだ。


「おいおい……道を塞いだら、オークが潰れたぞ……」


 もう一度【地形操作】を発動して、道を元に戻す。


 開かれた道には、オークだった肉塊が無残な姿で転がっていた。


「オークは比較的動きの遅い魔物とはいえ、一発で倒せるなんて……。しかも、安全圏から近づきもせずに」


 オークなんて、今まで倒したことない。いや、戦ったことすらない。

 それが、こうもあっさりと倒せるなんて。


「やばすぎるな」


 【万能地図】、強すぎる。


 スキルが進化すると、前のスキルよりも遥かに強くなるのだが……にしても、これは強化されすぎだ。

 戦闘も補助も、どちらもトップクラスだと言えると思う。


 しかも、今は(小)だけど、スキルは成長する。もし、もっと広い範囲を弄れるようになったら……。


「このスキルなら、俺は最強になれる」


 胸が熱くなる。気づけば、口元が緩んでいた。


 強くなりたい。もっと、もっと。


「見てろよ。俺は強くなって、ダンジョンをたくさん攻略してやる」


 だれに言っているのかわからないが、俺はそう宣言した。

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