第3話 隠し通路

「これが隠し通路……」


 壁の穴をくぐり抜けて、隠し通路に足を踏み入れた。

 地図を見ると、通路が繋がったからか壁の記載が消えている。


「思ったより普通だな?」


 最初はただの通路だった。

 入口が特殊なだけで、普通の道となんら変わりない。


 しかし、しばらく歩いて行き止まりの小部屋にたどり着いた時、その認識は誤りだったと気がついた。


「これは……! まさか全部ミスリルか……!?」


 小部屋の壁にびっしりと、白く輝く鉱石がついていた。……間違いない、ミスリルだ。


 ダンジョン内では、稀に鉱石が採れる。

 それも、魔力を内包する希少な鉱石だ。


 中でもミスリルは魔力の質、量ともに高く、魔法武器や魔道具よ素材として最適だ。

 高価で取引される。


「たしか二十層付近でしか発見されてないはずなのに……こんな浅い層にあるなんて。しかも、こんなにいっぱい」


 眩いほどのミスリルの山に、圧倒される。


 誰も来たことがないから、手付かずなのだろう。一個一個が見たことないくらい大きく、そして綺麗だ。


「隠し通路……いや、隠し部屋か。まさかダンジョン内でこんな場所があったなんてな」


 ここを発見できたのは【万能地図】のおかげだ。


 持って帰るだけで、過去一年の収入をゆうに超える。……まあ、足手まといだからと生活ギリギリの金しか貰えなかったのもあるが。


「全部は無理だな。持てる分だけ運ぼう。採掘用の道具も持ってないし」


 今日はそんなに深くまで行く予定はなかったから、採掘道具がない。

 無理に掘ろうとしたら割れたりして、綺麗に採れない可能性があるからな……。


 地面に落ちている小さなものを中心に、背嚢に突っ込む。

 欲張ると重すぎて移動に支障が出るので、ほどほどに留めた。


「こんなもんかな……。いや、これだけでも相当だぞ」


 よいしょ、と背負って、名残惜しいけどミスリルの山に背を向ける。

 通路を戻って、元の場所に出た。


「穴が空いちゃったから、誰かが通ったらバレちゃうよな。仕方ないけどもったいない……」


 隠れてなければ隠し通路でもなんでもない。


 くっ、準備してこなかったことが悔やまれる。こんなの予想できるわけないけど。


 泣く泣く立ち去ろうとして……まだ試していないことがあったのを思い出した。


「待てよ……? たしか……【万能地図】」


 空中に青白い光の線が走り、再び半透明の地図を描き出した。


 解放機能の一つに目を留める。


「もしかしたら、これでなんとかできるかもしれない」


 使い方は、地図が教えてくれる。

 俺は小さく頷いて、人差し指で地図上の隠し扉に触れた。


「【地形操作】」


 紙に地図を描くだけのスキルのはずだった。


 それが進化して、描かなくても地図が完成するようになった。それはまだ理解できる。


 でも、これは……。


「地図を描くんじゃなくて、地図を書き換える・・・・・


 【万能地図】が、俺の意志に合わせて地図の形を変える。


 同時に、崩れたはずのブロックが動き出し、穴を塞いでいく。


「地図に合わせて地形を変えるってことか……!?」


 自分で言いながら信じられない。


「地図ってなんだっけ」


 いや、理屈なんて通じないのがスキルだ。

 今までが地味だったから実感がないけど、スキルは人の身ではなし得ないことを可能にする。


「応用すれば色々できそうだな……。まずは、どこまでできるか確かめないと。今はただ、穴を元に戻しただけだしな」


 夢が広がる。


 この力があれば……俺は、冒険者として上に行けるかもしれない。


 なんてことない、ありふれた夢だ。


 子どものころ、伝え聞く英雄譚に憧れた。俺もいつか冒険者として名を挙げて、人々を救ったり魔物を倒したりして、英雄になるんだって。そう夢見た。


 とっくに諦めていたつもりだったけど……どうやら、胸の奥の熱は冷めていなかったらしい。


「検証は後だな。まずは……ダンジョンを無事脱出しないとな」


 今までは、悔しいがグランたちのおかげでダンジョンでも無事だった。

 俺は戦えないから。その分、あいつらがやりたがらないサポートに徹してきた。


 しかし、追放された以上は自力で生き延びなければならないのだ。


 俺は解放機能から、また一つ能力を選び出す。


「【サーチ】」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る