第2話 【万能地図】

「【万能地図】」


 スキルは進化・・する。

 条件はわかっていない。


 さまざまな経験を積むことで、少しずつ成長し、新たな能力が発現するのだ。


 俺の場合、最初は道を見ながら地図を書けるだけだった。

 次に、目で見ていない範囲でも、一定の範囲まで自動で描き起こせるようになった。


 そしてある時、スキルの名前自体が変わり、大幅にパワーアップする。

 それが進化だ。


 【剣術】だったグランのスキルが、戦闘系の中でも特に強力な【聖剣術】に進化したように。


 遅れて、俺もつい最近進化した。


 地図を書くだけだった【地図作成】から、【万能地図】へ。


「ちゃんと使うのは初めてだな……。どれどれ」


 たしかにスキルが発動した。


 かざした手から光が放たれたかと思うと、空中に半透明の地図が描き出された。


「す、すごいな……これなら紙がなくても道がわかる。……ていうか」


 指でそっと触れる。

 触っている感覚はないが、指の動きに合わせて地図も動いた。


「これ、ダンジョン全部の層が見えてるのか……!」


 立体模型を見ているかのようだ。


 手元に、ダンジョンの構造が描き出されている。

 全二十層。その全てが。


「しかも、行ったことない層までわかる。……これ、もしかしてめちゃめちゃすごいんじゃ」


 ごくりと喉を鳴らす。


 地図の端に、文字が書いてあった。


『解放機能:自動地図作成(大)、拡大、縮小、ルート検索、ナビ、マーキング、サーチ(簡易)、地形改変(小)』


「解放……機能? き、気になる。とりあえず上から試してみるか」


 はやる気持ちを抑え、一部を拡大してみる。

 やり方はなんとなくわかった。スキルが教えてくれるとでも言おうか。


 指で摘むように拡大すると、俺がいる十二層にフォーカスされた。

 拡大した分、より詳細に道を見ることができた。


 拡大の倍率は自由に変えられるようだ。


「ははは……! すごい! 今まで必死に歩き回って地図を完成させたのがアホらしくなるな!」


 ダンジョンの構造は迷路のように複雑で、初見で突破するのはまず不可能だ。

 だから、多くの冒険者はしらみ潰しに正しい道を見つけながら、少しずつ進む。


 【万能地図】があれば、その必要はない。

 まさしく、万能の力だ。


「……ん? なんだこれ」


 わくわくしながら地図を見ていると、知らない道を見つけた。


 この階層はグランたちとともに何度も来たことがある。今のところ十五層まで攻略が終わっているから、幾度となく通った道だ。

 だから地図は完成していたはずだ。


「十二層の道はある程度頭に入ってるのに……この道は知らないぞ?」


 より拡大してみる。


 俺がいる小部屋が大きく表示された。自分の位置もわかるのか、白い三角形がある。

 その少し横に、見知らぬ道が図示されている。


「こっちだよな……」


 地図を頼りに、移動してみる。すると、自分の位置を示す三角形も動いた。なるほど、体の向きに合わせて回転するらしい。


「……道なんてないぞ」


 地図に描かれた場所に行っても、ただの石壁だった。

 どう見ても、通路があるようには見えない。


 地図をよく見ると、たしかに通路はあるが今いる道からは壁で分断されている。


「なにかの間違いか?……いや、俺のスキルを信じよう。道はあるはずだ」


 こつこつと拳で叩いてみる。


 ……なにも起きない。

 このあたりの壁はレンガ積みのようにブロックになっており、素材はわからないが整然と並んでいる。


「……これのどれかがスイッチになってるとか?」


 ちょっとした閃きだけど、ほかに思いつくこともないし試してみよう。


 地図上で道が表示されているあたりのブロックを一つずつ押していく。


「地道な作業だな。合ってるかもわから……うぉっ!?」


 何個目だろう。

 片っ端から押し込んでいたら、一つだけぐいっと沈み込むブロックがあった。


 ほかと全く見分けがつかない、普通のブロックだ。道があると知らなければ、わざわざ押したりしまい。


「隠し通路か……!」


 ゴゴゴ、と重たい音を響かせながら、ブロックが崩れていく。

 巻き込まれないように少し下がったところで待っていると、次第に向こう側が顕になった。


 そして、一人分くらいの範囲で壁に穴が空いたころ、崩壊が止まった。


「まさか、こんな道があったなんて」


 ダンジョンに隠し通路があるなんて話、聞いたことがない。

 まさか、前人未踏の……。そう思うと、胸が高鳴る。


「入ってみるか!」


 追放されたことなど、既に頭から抜け落ちた。


 俺は進化スキル【万能地図】で、新たな一歩を踏み出した。

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