【地形改変】の地図士〜「地図なんて誰でも書ける」と追放されたけど、自由に地形を操作できるので最強です。隠し部屋もレアアイテムも見つけ放題で、最速ダンジョン攻略! あれ、俺を追放した奴らは迷子ですか?〜

緒二葉@書籍4シリーズ

第1話 地図なんてだれでも書ける?

「シクレ。地図を書くことしかできない脳なしはもういらん。追放だ」


 パーティリーダーである聖騎士グランが、俺に告げた。


「は……?」


 俺は地図から顔を上げて、思わず聞き返した。


 今は帰りのルートを確認していたところだ。

 世界に数多あるダンジョンはそれぞれ構造が違い、ひどく入り組んでいるため、地図は必須だ。


 それに、ダンジョンは大きくなるほどに階層の数も、階層ごとの広さも増していく。

 ここは二十層クラスのダンジョンで、全体で見ると中規模だ。しかし、地図なしではまともに帰れない。


 攻略が進んでいるダンジョンなら地図が売っていることもあるが、そうでなければ自分でマッピングしながら進むしかない。


「聞こえなかったのか? 地図なんて誰でも書ける。お前みたいな戦えない足手まといを連れて行く理由はないんだよ」


 ニヤニヤと意地悪く口元を歪めながら、グランは言う。


 ダンジョンは通路がそれほど広いとは言えないため、人数が多すぎるとかえって危険になる。いざという時に迅速に動けないからだ。


 だから概ね、四人が適正だとされていた。五人や六人でも不可能というわけではないが、それ以上となるとさすがに厳しい。


「ダンジョンは危険な魔物がいる。雑魚を連れて行くなんてメンバー枠がもったいないだろ?」

「グランの言う通りね! 冒険者にとって、スキルが全てなんだから」


 魔術師エレンが、グランにしだれかかりながら同意した。


「……戦闘に参加できないのは申し訳ないと思ってる。でも、地図も重要だろ? 俺はスキルがあるから、ほかの人よりも正確に書けるはずだ。それに、サポートだって……」

「はっ、【地図作成】なんてゴミスキルで威張るなよ。俺たちみたいに強いスキルを持っているわけでもねえくせに」


 誰でも一つ、神から与えられたスキルを持っている。


 聖騎士グランは【聖剣術】を。

 魔術師エレンは【風魔法】、重騎士エルドは【守護】を、それぞれ戦闘に役立てている。


 対して、俺が持つのは【地図作成】。

 冒険者としては、戦うことのできないゴミスキルだ。


 周囲の地形を正確に地図に書き写すことができる。便利ではあるが、それだけ。


 ダンジョンの地図を作って売ればそれなりに喜ばれるが、それだって護衛してくれる人がいなければ不可能。


 それに彼らのスキルとは違い、スキルがなくても再現が可能だ。事実、ほかのパーティにはスキルがなくても地図を書いている者もいる。


「地図を売って活動費の足しにしてるし、俺の地図には魔物や罠、素材の位置だって詳細に……」

「ずいぶんと必死だなぁ! なにもしてねえくせに、主張だけは一丁前だ。そんなの、戦えないんだから当たり前だろ」


 戦えない分、俺なりに貢献してきたつもりなのだが……。


 でも、戦うことだけが冒険者としての価値だと言うのなら、俺はたしかに無用の存在だろう。


 ……ダンジョン攻略を夢見て故郷を出たのに、俺はまともな冒険者になれていなかったのか。


「どうした? 早く消えろよ」

「ずっと目障りだったのよ! あなたが消えれば、もっと強い仲間を入れられるんだから」

「くくく、違いねえ」


 馬鹿にされても、コキ使われても耐えてきた。

 だというのに、最後はこの扱いか……。


「……わかった。じゃあせめて、ダンジョンを出るまでは一緒に行かせてくれ。案内が必要だろ?」

「おいおい、最後まで俺たちに寄生するつもりか? 地図だけ渡せ。シクレはお得意の地図作成で、自力で帰れるだろ?」

「地図の見方わかるのか……?」

「ちっ! 舐めるなよ……ッ」


 グランは舌打ちしながら、俺の手から地図を奪い取った。

 よろけた俺を、思い切り蹴飛ばす。


「っつ……」


 尻もちをついて、腰に衝撃が走った。


「はははっ! 軽く蹴っただけでそれだもんな? 弱すぎるぜ!」


 聖騎士のグランに、身体能力で敵うわけがない。


 ……いや、言い訳か。

 俺は冒険者でありながら、弱すぎる。それは事実だ。


「な、なあ。エルド。お前はどう思ってるんだ……?」


 三人とは、同じ村の出身だ。

 俺たち四人、昔は仲がよかった……気がする。グランはガキ大将だったけど、同年代の子どもが少なかったのもあってよく遊んでいた。

 グランとエレンが恋仲になり、俺を虐げ始めても、エルドだけは手を出さなかった。……助けてもくれなかったけど、男同士、それも優しさだと思った。


 だから、エルドなら……その希望は、蔑むような視線に打ち砕かれた。


「……俺も賛成だ。俺たちはこれから、Bランクに上がる。戦えないお前ではついてこられない」


 いつもの仏頂面のまま、視線も合わさずにエルドが言った。


「そんな……」

「ガハハ! そういうことだ! そのまま大人しくくたばるんだな!」


 高笑いするグランとともに、三人は去っていった。


 もう追いかける気力もない。


 一つ心配ごとがあるとするなら……。


「あいつら、地図読んだことないだろ……?」


 まあ関係ないか。

 自分がどうするかを考えないと。


「……あれを使うか」


 あいつらは知らない能力がある。

 

 隠していたわけではない。最近目覚めたばかりで、まだ言っていなかったのだ。

 それに使う機会もなく、自分でもあまり把握していない。


 それに、明かしたところで評価が変わることないだろうから、半ば諦めていた。


 ……でも、地図を奪われた今では意味がある。


「地図を売るためにわざわざ紙に書いてたけど……別に、書かなくてもわかる・・・・・んだよな」


 俺は空中に手をかざして、スキルを発動した。


「【万能地図】」

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