メイドカフェやってみたい

 ここは夢のふくろうカフェ『dream owl』。

 今日もフクロウたちが、いつもの席に座りながらくつろいでいた。


「メイドカフェやってみたい」


 カウンター席に座るれもんが、爆弾のような発言を投下する。

 キッズスペースで玩具の銃をいじっていたみかんが、「ぶぅっ!?」と盛大に吹いてむせた。

 カウンターの奥でグラスを磨いていたらいむが、微笑みながら尋ねる。


「どうしたんですか、藪から棒に」

「この前、カフェに来たお客さんが、駅前にメイドカフェができたって話してたから。僕たちも対抗しないと、お客さんが取られちゃうかなと思って」


 れもんの隣にいるすだちが、椅子に座りながら跳ねるようにツインテールを揺らした。


「メイド? やりたい! やりたい! オレ、メイドカフェ行ってみたかったんだよね~!」


 カウンター奥にいるらいむも、笑みを浮かべつつ足もとからなにかを取り出す。


「いいですね。こんなこともあろうかと、みなさんのメイド服を準備しておきましたよ」


 フリルのついた五人分のエプロンドレスを前に、れもんとすだちは前のめりになって席から立ち上がる。


「よし! それじゃあ、みんなでメイドカフェの練習しよう!」

「わ~い! あれ? みかん、今日はツッコミないけど、乗り気なの~?」

「……なわけないでしょ!? ところどころおかしかったのみんな気づいてよ! なんでふくろうカフェがメイドカフェに対抗しなきゃならないのさ! すだちはメイドカフェに行きたいのとなりたいのとは雲泥の差があるからね! そもそもらいむはどんな状況を想定してメイド服を準備してたのさーっ!」


 みかんのツッコミが炸裂する中、テーブル席の端では、はっさくが「俺には関係ない」と言わんばかりに顔を全力で壁に向け、コーヒーをすすっていた。


 ――お着替えタイム――


の服を着せるのは、やはり大変でしたね」

「それじゃあ、まずは僕からやってみるね」


 メイド服に身を包んだれもんが、扉の前に立つ。笑顔を見せつつ、お客が入ってきたのを想定して片手を軽く上げた。


「いらっしゃいませ、お嬢様。夢のふくろうメイドカフェ『dream owl』へようこそ」


 流れるように挨拶をして、テーブル席の椅子をさっと引く。


「どうぞこちらにお座りくださいませ。まずはお近づきの印に、ささやかながら僕からのプレゼントです」


 そう言って差し出したのは、一枚の白い羽。


「れもん、なにそれ?」

「この前抜けた僕の羽です」

「自分の抜けをあげる神経っ!」


 端から見ていたみかんが、堪らずツッコミを入れる。


「この前切った僕の髪のほうか良かったかな?」

「やめてよ! 髪の毛をプレゼントされるとか、なにかの呪いだと思われるから!」


 続いて、らいむのターン。


「では、次は私がやってみますね」


 そう言って扉の前に立ち、優しい微笑みを見せながらお辞儀をする。


「お帰りなさいませ、お嬢様。夢のおさわりふくろうメイドカフェ『dream owl』へようこそ」

「なんか増えてない?」


 みかんのツッコミをスルーして、らいむがさっとソファへ手を差し出す。


「こちらへお座りください。当店では、ご指名をいただいたメイドとのを楽しんでいただけます。このたびは私のご指名、ありがとうございます」


 微笑みを絶やさず、らいむはソファの端へ腰を下ろした。


「それではお嬢様、お気の召すままを。……あっ、そこですか? 構いませんよ。ゆっくり、そっと触れてくださいね。……あァっ、」

「ストップーッ! レイティングつけなきゃいけないことやらないでよ!?」


 どこからともなく出したホイッスルを「ピーッ!」と鳴らし、らいむの茶番は強制終了させられた。


「らいむって、MかSかわからない時あるよね?」

「どちらでもいけますよ」

「どんな会話してんのさっ!」


 続いて、すだちのターン。


「みんな、まだまだだね~。オレが本当のメイドカフェを教えてあげるよ~!」


 自信満々なすだち。メイド服も戦闘時にいつも着ているため、一番着こなしている。


「ようこそ、お嬢様、夢のふくろうメイドカフェ『dream owl』へ~! こちらへどうぞ~」


 そう言って、椅子を引いてお客を招き入れる。

 続いて取り出したのは、愛用の鎖鎌。


「まずは動けないように、鎖で椅子にグルグル巻きにしちゃうね~? 鎌はお膝の上? 胸の前? それとも首もとがいいかな~?」

「客は夢鼠かっ!?」


 やってきた客を明らかに倒しに掛かっている。


「あっ、この服を着ると、つい狩りの気分になっちゃうんだよね~」


 すだちは自分の頭を小突き、ペロッと舌を出して見せた。


 続いて、みかんのターン。


「えぇっ!? 嫌だよ! ボク、やらないからね!」

「大丈夫だよ、みかん。台本もちゃんと用意したから」

「台本って、なんなのさっ!?」


 れもんから台本を渡されて、みかんがしぶしぶ扉の前に立つ。


「い、いらっしゃいませ、お嬢様っぽー。ようこそ、夢のふくろうメイドカフェ『dream owl』へっぽー。まずはこちらへお座りくださいっぽー。ご注文は、お決まりでしょうかっぽー」


 そこまで言って、耐えられずに台本を床にたたき落とす。


「さっきから『っぽーっぽー』って! なんなのさ『っぽー』って!」

「フクロウだから、語尾に『っぽー』って付ければ可愛いかなと思って」

「フクロウがみんな『っぽー』って鳴くと思わないでよね!」

「えっ? じゃあみかんはなんて鳴くの?」


 一瞬の沈黙のあと。


「ピュンッ。ピュンッ」


 れもんとらいむとすだちが、そろって温かい微笑みを見せた。


「可愛いね」

「やめてよ! こんなところで地声出させないでよっ!」


 続いて、はっさくのターン。


「はっさく、らいむにメイド服を着せられてから完全に存在感を消していたんだけど、大丈夫なの……?」


 心配するみかんをよそに、はっさくはフリルのついた長いスカートを揺らして扉の前まで来る。息を吐き、軽く閉じた片目を開けて、客を招き入れるように片手を上げた。


「いらっしゃいませ、お客様。貴方を至福の花園へお送りする『冥土メイド』カフェへようこそ」


 棒読みの低い声で発せられる言葉を聞き、一同の背筋に悪寒が走る。


「こちらでは貴方を安らかな眠りへとお連れします。圧殺、撲殺、刺殺、斬殺……お好きな方法をお選びください」


 次の瞬間、はっさくの片目がれもんのほうを向く。目にも留まらない速さで、れもんは胸倉をつかまれ、気づいた時には壁に身体を押しつけられていた。


「さぁ、選べ」


 メイド服を着るはっさくが、殺意のオーラをまき散らしながら問いかける。


「ご、ごめん、はっさく!? そんなに怒ってたの!?」

「はっさく、夢鼠狩る時より怖いよ~」

「まぁ、自業自得でしょ」

「はつ、そのくらいにしてあげましょうね?」


 こうして、今日も夢のふくろうカフェ『dream owl』の夜は続くのであった。

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