第6話 ハンティングショー
五人の姿は光に包まれる。光の中で、五人の衣装がそれぞれ変わっていく。
れもんは純白の衣装に身を包む。銀の耳飾りがきらめき、右肩に付いた白いマントが
白い羽をひとつ手に取ると、それは
「
らいむは真紅の衣装に包まれる。スカートのように裾の長いロングコートをなびかせ、胸に飾られた首飾りがきらめく。その姿はまるで、気品高き女王。
宙に舞う褐色の羽を手にすると、それらは小型のナイフと化す。細い指の間に挟んだ八つのナイフが、胸もとで交差する。
「来る夢を待つ者――
はっさくは漆黒の衣装に身を包む。胸もとが大きく開いた服を身につけ、頭には金の
二つの羽を手に握りしめ、開くと、鋭利な鉤爪が装着される。鉤爪を振るい、片方だけの目が鋭い眼光を放つ。
「初めての夢を咲かせる者――
すだちは濃い青色の衣装に包まれる。頭には花が咲いたカチューシャをつけ、エプロンドレスの縁を彩るフリルが揺れる。その姿はまるで、愛くるしいメイド。
ふわふわと舞う藍色の羽を捕まえると、それは鎖鎌へと姿を変える。鎖とツインテールを揺らしながら、身体がくるりと一回転する。
「新たな夢へ巣立つ者――
みかんは淡い黄色の衣装に身を包む。迷彩柄の帯びた制服を着て、頭にはベレー帽を被る。その姿はまるで、小さな兵士。
手にした二つの羽は、二丁の拳銃に変わる。口を弓なりに曲げると、片方の手を挙げて発砲音を響かせる。
「甘美な夢を見せる者――
包んでいたまばゆい光が収まっていくと、そこには姿の変わった五人が並び立っていた。真ん中にれもん、左側にみかんとらいむ、右側にすだちとはっさく。それぞれが武器を手に、夢鼠に向かって身構える。
「夢に巣くうもの、
真ん中に立つれもんが、刀を夢鼠に向けて言葉を紡ぐ。
それが合図というように、それぞれの背から生えた翼が開いた。
「前から気になってたんだけどさ、なんでらいむがリーダーなのに、れもんが真ん中で仕切ってるわけ?」
と、銃を両手に持ちながら、みかんが首だけ振り返ってらいむに訊く。
「
「オレ、こっちよりもらいむの隣がいいよ~。交代しよう、みかん?」
すだちが唇を尖らせながら、ツインテールを揺らして首を傾げる。
その時、前方にいるウサギの姿をした夢鼠が、上を向いて声を上げた。
「
はっさくの言葉とともに、どこからともなく降ってきたのは、人の倍ほどある巨大な黒い鼠。ウサギの姿をした夢鼠の周りを、鼠の取り巻きが囲む。その数、十匹。
「えっ、なに!? 夢鼠、増えたよ~!?」
「落ち着いてください、すだち。夢鼠は仲間を呼ぶこともあるんです」
らいむが言うや否や、鼠たちが跳び上がり、五人に前歯を向けて迫る。五人は身を軽く屈め、鼠の突進を避けて飛び立った。
「さぁ、ハンティングショーの始まりだよ!」
最初に仕掛けたのは、れもんだった。
翼を羽ばたかせ、方向転換して一瞬で鼠の背後をとる。鼠は気配を察して振り返るが、逃げる暇は与えずに、れもんは刀を振り払った。
鼠の頭に、斜めに刃の斬り跡が残る。次の瞬間、鼠は弾けるようにして、光の粒子を散らしながら消えていった。
「よし、まず一匹」
れもんは刀を構えながら、次の鼠に狙いをつけて、地面に足をつける。けれどもなにかに気付き、とっさに頭上へ飛び上がった。
直前までれもんのいた場所を、二つの弾丸が通り過ぎる。弾丸が鼠の頭に直撃し、鼠は光の粒子をまき散らしながら消えていく。
「不意打ち成功。これならボク一人でも楽勝だよ」
離れた場所から、みかんが床に足を着け、二丁の拳銃を両手に構えていた。再び引き金を引き、鼠に向かって次々と弾丸を撃つ。一匹、二匹と、鼠は弾丸を受けて消えていく。
「後ろだ!」
その時、鋭い声がみかんの耳に届いた。
振り返ると、いつの間にか背後にいた一匹の鼠が、みかんに向かって跳躍し、襲いかかってくる。
「っ!?」
みかんは翼を羽ばたかせて後退しようとしたが、反応が遅れて間に合わない。鼠の前歯がぶつかる直前、目の前に大きな人影が割って入った。
「はっさく!?」
はっさくが両手を顔の前で交差させて、鼠の前歯を受け止める。ぶつかった衝撃が漆黒の衣装を揺らした。わずかに足が後ろへずれるが、それ以上は引かずに踏みとどまる。片目の鋭い眼光が前を見据えたまま、左手だけで前歯を受け止めつつ、右腕を引いて鉤爪を突き刺した。
胴体を刺された鼠は、光の粒子を散らしながら消えていく。鉤爪のついた両手を降ろし、はっさくは片目をみかんへ向けた。
「過信するなと言ったはずだ」
みかんはばつが悪そうに目をそらし、舌打ちを零した。
「わかったよ……」
別の場所では、一匹の鼠が床の上を走り回っていた。足もとに次々とナイフが突き刺さっていき、鼠はそれを避けていく。
「逃がしませんよ」
上空から、真紅の衣装に身を包むらいむが腕を振るい、指に挟むナイフを鼠に向かって投げる。鼠がナイフを避けながら進む先には、すだちが待ち構えていた。
「すだち、今です」
らいむの言葉とともに、すだちは回していた鎖鎌を勢いつけて投げる。鎖が鼠の胴体に巻き付いた。
「捕まえた~っ!」
嬉しそうな声を上げながら、すだちは鎖を引っ張り、鼠を拘束する。
すかさずらいむが鼠に向かって両手のナイフを投げた。縛られた鼠の体に、八本のナイフが突き刺さる。鼠は光の粒子を散らしながら弾けて消えた。
「よくできましたね、すだち」
「えへへ~、オレ、カッコ良かった?」
「えぇ。素晴らしかったですよ」
らいむがすだちのそばに飛んでいって、優しく笑いながら頭を撫でてあげる。
すだちは頬を染めながら、嬉しそうにツインテールを揺らした。
「あと四匹。まとめて倒すよ!」
二人の横では、純白のマントを翻しながら、れもんが残り四匹の鼠と戦っていた。
地面に足を着けたれもんは、四方を鼠に取り囲まれる。鼠が一斉に、襲いかかる。前歯が迫る直前、れもんは上空へ飛び上がった。
「はぁぁぁあああああーーーっ!」
真ん中に集まる鼠たちに向かって、刀を振り上げながら急降下する。四匹の鼠を、十字に斬り裂く。地面に足を着けたタイミングで、鼠たちは弾けるように消え、れもんの周りを光の粒子が踊った。
「これで、取り巻きは消えた」
れもんが呟き、表情を引き締めながら再び上空へと飛びあがる。
視線を斜め下へ向けると、少女が閉じ込められた黄緑色の結晶が浮いていて、その上でウサギの姿をした巨大な夢鼠が五人の様子をじっと眺めていた。
「最後の相手です。みなさん、気を抜かないでください」
らいむがナイフの挟んだ手を夢鼠に向け、皆に声を掛ける。
隣ですだちは鎖鎌を回しながら身構える。その顔には一抹の不安が滲んでいた。
後方では、はっさくが表情を変えずに冷静に相手を見据えている。隣にいるみかんは、銃を構え相手を睨みながらも、口の中で唾を飲み込んだ。
「来ますよ!」
夢鼠がわずかに身を動かした。その小さな動作を見逃さず、らいむが声を上げる。
次の瞬間、夢鼠の姿が、消えた。
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