衝撃の事実

 黒空くろぞらさんと約束した学校前に向かう私。学校付近に住宅はないし、今日からGWゴールデンウィークだ。閑散としているな~。


黒空さんは既に到着して、私を待っていた。


「来てくれてありがとう」


待たせちゃったのに、お礼を言われるなんて…。


「良いの。…それより、昨日黒空さんが言ってた天使のことなんだけど」

黒空さんの周りに、それっぽいのはいない。


天草あまくささんに見えてないだけで、私の左右にいるよ」

黒空さんは地面を手で示している。


「…えーと『天使が見えるようになる魔法をかけます』って言ってる」


黒空さんがそう言った瞬間、まばゆい光が襲ってきたので目を閉じた。

再び開けると…。



「どうです? 見えるようになりましたか?」


中学生ぐらいに見える子に、大きな白い羽が生えている?


「はい。…失礼ですが、本当に2人は天使なんですか?」

羽は飾りかもしれないし…。


「仕方ないですね~。…これで良いですか?」


最初に声をかけた天使ではない、もう1人の天使が羽をパタパタさせて滞空している。こんな事、人間に出来るはずがない…。


「わかりました。2人は天使ですね。信じます」


「信じてもらえたなら、滞空しなくて良いですね」

飛んでた天使は着地した。飛ぶのって、やっぱり大変なのかな?



 「初めまして、シオンさん。私はフローラ。エンジェルガードの〇△所属です」


「私はビアンカ。エンジェルガードの☆※所属で~す。よろしくね。シオンちゃん」


「天草シオンです。…私の事、知ってるんですか?」

読心術でも使ったのかな?


「黒空さんから聞いてますよ。名前以外は聞いてないのでご安心を」

フローラさんが答える。



「あの…、って何ですか?」

何かの組織なのは伝わってくるけど…。


「日本でいう『警察』ですね。天使なりに人間界の治安維持をするんです」

今度はビアンカさんが答える。


「時効寸前の事件が急に解決したり、手掛かりがない事件に進展があるのは

エンジェルガードが陰ながらサポートしてるからなんですよ」


フローラさんが補足する。天使って、人間に深く関わっているんだな~。



「フローラさんとビアンカさんは、どういう関係なんですか?」

所属が違うなら、接点はなさそうだけど。


「フローラちゃんは私の後輩です。元々、私とフローラちゃんは同じ所属だったんですよ。フローラちゃんはこっちに異動して、所属が変わりました」


ビアンカさんのほうが先輩なの? 逆だと思ってた…。



フローラさんとビアンカさんを見比べると、ビアンカさんはフローラさんにない

バッジを付けている。あれは何なんだろう?


私の視線に気付いたビアンカさんは、急に解説を始めた。


「私、数年前に起きた神隠し事件を解決させた功績で昇進したんですよ。

このバッジはその証なんです。凄いでしょ~?」


自慢してくるビアンカさん。


あの事件のことは、ここ最近カズラと話したな~。

その功績者が目の前にいるなんて…。すごい偶然だ。



 フローラさんとビアンカさんのことは、大体わかった。

次は黒空さんが話したいことだ。


「黒空さん。昨日のメッセージで言ってたって何?」

今日来た理由は、これを聴くためだ。それを忘れちゃいけない。


「その事なんだけどね。天草さん、真剣に聞いてほしいんだけど…」


何だろう? 言いにくいことなのかな?


「実は私、胡蝶蘭こちょうらんさんに消されそうになったの」


「えぇ!?」

カズラ、黒空さんを消すことを諦めてなかったの?


「これから、順々に説明するわね」


黒空さんは話しだす。



 「昨日の帰りのことよ。私はいつも通りの時間に家に帰ろうとしたの。

その途中で突然『横に飛んで』という声が聞こえたのよ」


「『横に飛んで』の指示を出したのは私です」

フローラさんが付け加える。


「訳が分からないけど、指示通り飛んだわ。

そうしたら黒いものが飛んできて、近くにあった看板を消したの」


「その後、私フローラは黒空さんに正体を明かし、その場に待機するように指示した後、黒いものを飛ばした犯人を追いました。

途中で逃げられましたが、何とか姿を撮ることができました」


そう言って、私に複数の写真を渡してきたフローラさん。


「角と大きな黒い羽があるけど…、この顔。カズラだよね?」

嘘でしょ? カズラ、どういう事なの?


「悪魔に逃げられた後、私は黒空さんにも今の写真を見せました。そうしたら悪魔と仲良くしていたのは、シオンさんと聞きましたよ」


「『悪魔』って呼ぶのは止めて。彼女は『カズラ』よ」

私はフローラさんに反論した。『悪魔』と呼ぶのは納得できない。


「失礼しました。カズラさんと仲良くしていたのはシオンさんだと、黒空さんから聞いたので、今日直接話す機会が欲しかったのです」


そういう事か。じゃあ、ビアンカさんはどうしてここにいるんだろう?


「私はこの件を上に報告しました。上は、過去に神隠し事件を解決した先輩をここに派遣したんです」


「ここ、私の所属から遠すぎます。特別手当を出してもらわないと割に合いません」

ビアンカさんは文句を言っている。


「黒空さんと先輩は、シオンさんが来るちょっと前に初めて会ったんですよ」

フローラさんが、2人の関係を説明してくれた。そうなんだ。



 「これが昨日の夜に起こった事なの。天草さん、信じてくれる?」


黒空さんが襲われたのは、間違いなく私のせいだ。

私が黒空さんの利用路線を教えたから…。


それを黙っているのは簡単だけど、黒空さんに嘘をつき続けるのは辛い。

…正直に話そう。きっと、黒空さんに嫌われるだろうな。


「黒空さん、ごめんなさい。昨日の件は、私のせいなの」


「天草さんのせい? どういう事なの?」


「私、カズラから黒空さんのプライベート調査を頼まれたの。カズラが黒空さんを消したがっていたから、その手助けをね。

ここ最近、黒空さんに声をかけたのはそのためなんだ。カズラは私が提供した情報を元に、黒空さんを消そうとしたんだよ」


「待ってシオンちゃん。カズラちゃんがあの力を持っていること、知ってたの?」

ビアンカさんが私に質問してくる。


「…はい。知ってます。その力で私の父を消してもらいました」



…誰も声を発しない時間が続く。そんな状況を変えたのは黒空さんだ。


「そっか。そういう事なんだ…」


「謝って済む問題じゃないのはわかってる。私、最低だよね…」


「天草さんは悪くない。悪いのは、胡蝶蘭さんだよ」


黒空さんの目は、怒りに満ちているように見える。


「天草さんが何を話しても、実行したのは胡蝶蘭さんなら、悪いのは彼女よ。

私が気に入らないなら、私に言えばいいのに。天草さんは関係ないじゃない」



黒空さんが言い終わった後、着信音のような音が聞こえてきた。


「この音、私のだ。ちょっとしつれ~い」

ビアンカさんは携帯みたいなのを取り出して、距離を置いた。電話かな。


ビアンカさんの様子を観る限り、良い話とは思えない。

カズラがあんな姿になった事と関係あるのかな?



 電話が終わったぽいので、私達の元に戻ってきたビアンカさん。

そこで、衝撃の事実を聴かされた。


「さっきの電話、上からでした。要件は…、とのことです。異論は受け付けないそうですよ」


ビアンカさんは真剣な表情で言う。嘘ではなさそうだ。


「待って下さい。カズラを…殺す?」

黒空さんを消そうとしたけど、未遂でしょ? 殺すほどではないはず。


「そうです。過去にも悪魔化した人間はいますが、全員例外なく殺害されています。今回もそうなりましたか…」


さっきのような無邪気な様子はなく、冷たい言い方のビアンカさん。



「フローラちゃん。私は上に呼ばれたから、葵ちゃんのこと任せるね」


というのは、黒空さんのことだ。


「はい。わかりました。お気をつけて」


「気を付けるのはフローラちゃんだよ。いつカズラちゃんが来るかわからないし」


ビアンカさんは急上昇した後、猛スピードで飛んでいった。



 「私達の話は以上です。これからどうされます?」


フローラさんに訊かれる私。…どうしようかな?

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