第4部 天草シオン&黒空葵編 ※第3部と世界観共通

天使フローラ

 私は自分の名前を書くことが嫌いだ。天草あまくさシオン。何で『シオン』がカタカナなの? みんなの名前は漢字なんだよ。当て字でも良かったのに…。


そんなモヤモヤを抱き続けたけど、両親に言う勇気はなかった。

言っても名前はもう変えられないから。慣れるしかないのかな。



中学卒業の時にやっと諦めがつき、高校に入学した。


自己紹介の時に黒板に名前を書かされたけど、私の前に自己紹介した『胡蝶蘭こちょうらんカズラ』という子の名前を観た時、衝撃が走った。あの子も名前がカタカナだ。


勝手に仲間意識が芽生えた私は、自己紹介後に自分からカズラに声をかけた。

カズラは時折面倒そうにするけど、ちゃんと答えてくれる。


彼女は真面目なタイプじゃない。でも私はカズラを友達だと思っている。

カズラはどう思っているかわからないけど…。



 カズラが私の家で見せた態度は忘れられない。


―――


「あんたさ、あたしがお父さんを消したんだよ。あたしに借りがあるでしょ?

ならあんたは、あたしに力を貸すべきじゃないの?」



「言っとくけど『』なんて許さないからね」


―――


あんな風に私を脅してくるなんて思わなかった。逆らったら、私も消されるの?

カズラは消す力で変わっちゃったのかな? 怖いよ…。



 怖かったけど、と聴いた時は勇気を出して伝えた。


―――


「そうじゃなくて…、黒空さんを消してほしくない」


―――


カズラはそれを聴いて考えた後…


―――


「…わかったよ。黒空を消すのをあきらめる」


―――


黒空さんを消すのを諦めてくれた。嬉しい。

カズラは変わってなかったんだ。あの時は、に違いない。




 「…さん」


「天草さん!」


私を呼ぶ声でハッとした。移動教室先でぼーっとしていた。

私は急いで声をかけた人を見る。


黒空くろぞらさんだ。カズラの調査の件以降、話すことが増えた。

連絡先も交換してある。


「どうしたの? 黒空さん」


「胡蝶蘭さんが来てないんだけど…。何か聞いてない?」


カズラとは、体育館裏で話したっきりだ。

何で来ないんだろう? サボりかな?


「聞いてないよ。さっき体育館裏で話したんだけど…」


「そう…。天草さんでも知らないんじゃ、どうしようもないわね」


「私、カズラと仲良いのかな? 自信ないよ…」


「胡蝶蘭さんが楽しそうに話すのって、天草さんだけだと思う。

自信持ちなよ。私はいつも睨まれてるし…」


黒空さんは苦笑いしている。


結局、カズラは移動教室先に来ず、教室に戻ったら既にカズラの荷物はなかった。やっぱりサボりかな?


カズラの連絡先は知ってるけど、今まで数回しか使ったことがない。

何かあれば、カズラから連絡してくると思う。



 自宅に帰り、寝る寸前のこと。突然、携帯が鳴った。カズラかな?

そう思ってチェックしたら、黒空さんだった。


【夜遅くごめんなさい。明日、学校前で会えないかしら?】


今日がGW前最後の登校日だから、明日からGWになる。

黒空さんがそんな凡ミスするかな?


【明日からGWだよ。急ぎなら、今から話しても大丈夫だけど?】


送信完了。すぐに返信が来る。


【直接会って話したいの。私が会った天使もそう言ってる】


天使? 黒空さんが嘘付くわけないし…。

よくわからないけど、明日直接訊いたほうが早そう。


【わかったよ。明日、学校前で会おうね】


すぐ返信が来る。


【ありがとう。よろしくね】



 黒空さんが言った、天使が気になる。何者なんだろう?

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