友達の消したい相手

 友達の天草あまくさシオンに自称悪魔の力を見せたところ、シオンが「消してほしい人がいる」と言ってきた。


条件次第では飲んで、あたしのウザいクラスメート消しの手伝いをしてもらおう。



 「それで、誰を消してほしいの?」

登校中で2人並んで歩いている時に、あたしが尋ねる。


「私の…お父さんなんだけど」


「お父さん?」

まさかの親かよ。これは予想外だ。


「私のお父さん、前は真面目に働いていたんだよ。でも、会社のものを横領してクビになってね。それから就活せず自暴自棄になって、酒とパチンコ三昧なの…」


あたしが言うのもなんだけど、そりゃ消したくなるわ。

そんなクソ親父があたしの親だったら、最初に消してるかも?


「そっか…。それは大変だね」


「うん。私もお母さんもいつも頭を抱えているよ」


家庭内トラブルに首を突っ込むのは面倒だけど、その分の見返りはありそうだ。


「いいよ。受けてあげる。ただ、確認してほしいことがあるんだ」

後で逆切れされたくないからね。


「確認? なんの?」


「さっきの力は、よくわかっていないんだ。だから、消した人は2度と戻ってこないと思う。それと、本当にお父さんを消して良いんだね?」


「…うん。お父さんは深夜に酒に酔って帰ってくるの。だからさカズラ…」


「なるほど。じゃあ、今日シオンの家に泊まるね。それで良い?」

これでシオンのお父さんの寝込みを襲える。完璧なプランだ。


「わかった。お願いね」



 シオンが答え終わった時、あたし達は昇降口に着いた。


「今日友達を泊めることを、お母さんに伝えるね」とシオンは言って、トイレに駆け込んでいった。黒空を避けるためか。


あたしは気にせず、教室で『今日、友達の家に泊まる』と携帯で母さんに連絡した。


母さんの既読をスマホを見つめて待っている時、黒空に「胡蝶蘭こちょうらんさん。校内で携帯は使っちゃダメって言ってるでしょ」と注意された。まったく、タイミングが悪い。


「わかってるよ。うるさいな」

仕方なく、あたしはスマホをスカートのポケットに入れる。


黒空の奴、やっぱりウザいな。最初に消すのは、アイツにするべきか?


黒空が立ち去って間もなく、シオンが教室に戻ってきた。


「お母さんから返信があって、今日泊まって良いって。大したおもてなしはできない、って言われたけど」


「いいのいいのそんなの。あたしがお邪魔するんだからさ」

シオンの好感度UPのためだ。多少は我慢するよ。



 その日の放課後、あたし達はシオンの家に到着した。ぶっちゃけ、外観はあたしの家よりボロそうだな。


シオンは鍵を開けずにノブを回す。お母さん居るんだ。


「ただいま~」


「お邪魔しま~す」


玄関で靴を脱いでいる時に、奥からシオンのお母さんがやってきた。


「あらあら。あなたがシオンのお友達の?」

シオンのお母さん若いな。うちの母さんよりだいぶ若くね?


「はい。胡蝶蘭カズラです。今日はよろしくお願いします」


「わざわざご丁寧に。…ねぇ、カズラちゃん。人を消せる力って本当なの?」

シオンのお母さんの予想外の質問に驚くあたし。


「ちょっとシオン!? あの事、お母さんに話したの?」

話すなら、あたしに相談してよ。


「…うん。急にお父さんがいなくなったら、お母さんが怪しむでしょ?」


確かにそうだけどさ。


「…玄関先でする話じゃないわね。2人とも、リビングにいらっしゃい」

そう言って、シオンのお母さんは先に向かって行った。


用意されたスリッパを履いて、リビングに向かうあたしとシオン。

シオンのお母さんは、あたしの分を含む全員のお茶を用意してくれた。


「ありがとうございます」


「いいのよ。それで、さっきの人を消せる話だけど…」

お母さんから切り出すのか。余程切羽詰まっているのかな?


「はい。人には試したことないんですが、物は本当に消せました。実際に消すにあたって、お母さんに確認してほしいことがありまして…」


朝のことをまた言わないといけないのか。面倒だ。


「いいわよ。何かしら?」


「消せる力は、よくわかっていないんです。なので、消した人は2度と戻ってこないと思います。それでも、消すことを望みますか?」


「ええ。望むわ。もうあの人に更生の余地はないと思うの。このままじゃ、私もシオンも耐えられない。…カズラちゃん。お願いします」


頭を下げてきたシオンのお母さん。


「お任せください」

人を消せる力で、人助けすることになるとはね。



 シオンのお父さんは、深夜に泥酔して帰ってくる。

その時が本番だ。必ず消してあげるから、シオンのお父さん。

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