犯人

 帰り道にビアンカから聞いたことを自室で考えるオレ。久保田さんを神隠しした犯人は、オレの近くにいる。


電車通学だから、どうしても人が密集する。その人達全員が対象なのか?

…いや、それはないだろう。だったら被害者が、うちの高校の教師と生徒だけにならないと思う。


不審者がうちの高校に侵入し、教師1名と生徒3名を消す。

偶然だろうと故意だろうと、考えにくい。リスクが大きすぎる。


プライベートの時を狙ったなら、目撃者なり監視カメラの映像があるはずだ。

それにビアンカが所属する、エンジェルガードが多少はつかんでいる…と思う。


あの天使を当てにするのは間違っているか?

初対面からポンコツを発揮したからな。



 総合的に考えると、神隠しの犯人は、うちの高校の教師か生徒だ。

対象は絞り込めたが、それでも選択肢は多い。


被害者の共通点を考えれば、犯人につながるかも?


消えた佐々木君・安藤さん・久保田さんは、オレのクラスメートで共通している。

その3人と何らかのトラブルを起こしたクラスメートが消したとか?


生徒とトラブルになるのは、クラスメートが有力だろう。

他学年・他クラスの生徒が、消したくなるほどの恨みを抱えるか?


だからと言って、犯人をクラスメートと判断するのは早計か?

そうミスリードさせるのが、犯人の狙いだったら?


そもそも、今は犯人をクラスメートとして仮定した場合だ。

教師の場合はもっと複雑だ。担任の桜井先生すら怪しくなってしまうぞ。



 1人で考えると堂々巡りだ。ビアンカの意見も訊いてみよう。

オレはビアンカから受け取った鈴を取り出す。


これを鳴らせば来るらしいが本当かな?

騙されたと思って、使ってみるか。


オレは鈴を鳴らしてみた。…来ないな。

ビアンカの浮いてる姿を観たから天使は本当だろうが、エンジェルガードは嘘か。


オレは学校と塾の宿題をやり始めることにした。

簡単な学校の方が終わり、塾のを始めようとした時だ。


「すみません。遅くなりました」

ビアンカは壁をすり抜けて、オレの部屋に来た。


「遅かったじゃないか。あの鈴、イタズラかと思ったぞ」


「今日はもう非番なんです。女の子の準備には時間がかかるんですよ」

プンプン怒り出すビアンカ。さっき会った時と服装が違っているな。


「悪い悪い。訊きたいんだけどさ。さっき、オレに悪魔の力の残滓があるって言ったよな?」


「はい」


「じゃあさ、悪魔の力を行使している人はわかるのか?」

残滓がわかるんだ。力の元もわかるはず。


「もちろんです。心当たりがあるんですか?」


「まぁな。オレのクラスメートをこっそり観察してもらいたい」

認識阻害なら、人の目を気にしなくていいからな。


「なるほど~。そのクラスメートさんの中に犯人がいると?」


「あくまで可能性だが、あり得ない話じゃない。明日の朝なんだが、教室に来てもらえるか?」


「…仕方ないですね~。この件がエンジェルガードに認められれば、昇給・昇格間違いないですし」


ニヤニヤするビアンカ。天使のくせに現金じゃないか?


「そういえば訊きたかったんだけど、オレの学校の神隠しって全国ニュースになったんだが、何でビアンカは知らなかったんだ?」


会った時に「不可解なことは起きてるか?」なんて訊く必要ないよな。


「それは簡単です。多くの天使がマスコミを信じていませんから。誇張は当たり前。というもっともらしい理由を言ってやりたい放題やる組織ですよ。エンジェルガードは、実際マスコミに振り回されたことがあるんです。それ以降、信用する天使は皆無です」


辛辣だな。オレも似たような考えだが。



 「明日、登校する直前に鈴で呼ぶからよろしくな」

ビアンカの協力なしでは解決するのは無理だ。事前に確認しておく。


「はい。わかりました」

そう言って、再び壁をすり抜けて消えるビアンカ。


明日、おそらくこの失踪事件に決着がつく。

どんな結果になっても受け入れないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る