第2部 柳林太郎編 ※第1部と世界観共通

天使ビアンカの助言

 チャイムが鳴るちょっと前に、夏木君が入ってきた。

彼はこっちを選んだか。やはり、クラスメートがいると嬉しい。


彼はオレの顔を観ると、何とも言えない顔をした。

嬉しいのか? 残念なのか? どっちなんだ?


この時間になっても、オレの隣の席の久保田さんは登校していない。

神隠しにあったのか、兄弟校に行ったのかはわからない。


結局、誰が兄弟校に行って、誰が神隠しにあったんだ?

今日、桜井先生に訊いてみよう。教えられないなら、そう言うだろう。



 チャイムが鳴り、桜井先生が入ってきた。入ってオレ達の顔を観るなり、いきなり涙ぐむ先生。


「兄弟校に行った人もいるけど、お前達が残ってくれて良かった。本当に良かった…。」


先生の男泣きに誘われて、一部の人も泣き出した。

オレも少しウルっと来たな。


全員落ち着いたところで、先生はホームルームを始めた。


先生が電話で言っていた、監視体制の強化についての説明があった。

廊下には監視カメラ、トイレや更衣室などは近隣に警備員を置くらしい。


ずいぶん金かけるな。この高校の本気度が伝わるよ。


授業については、普段通りにできるらしい。

電話で言っていたプリント学習の卒業要件は、あくまで最後の手段みたいだな。


もしくは、兄弟校限定の話か?


これでホームルームは終わった。

あとは、昼休みに先生に神隠しの真相を訊くだけだ。



 早々に弁当を食べ、オレは職員室に向かった。

桜井先生は、書類を書いていた。


「先生、お昼休みにすみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんです」


「どうした? 柳」

先生は手を止めて、オレの顔を観る。


「神隠しについてですが…」

デリケートな問題なのは百も承知。小声で話す。


「その事か。何が訊きたいんだ?」

先生は一瞬、眉をひそめたものの、笑顔で応じた。


どうやら隠す気はなさそうだな。遠慮なく訊けそうだ。


「神隠しの被害者です。先生ならもちろんご存じでしょう?」


「ああ。まず女子体育担当の阿部先生。教師は彼女1人だけだ」


教師も気になるが、オレは生徒を聴きたいんだ。


「生徒は…、うちのクラスだった佐々木・安藤・久保田の3人だ」


久保田さんが…? 彼女なら、兄弟校でうまくやっていると思ったのに。

何で彼女が神隠しにあわなきゃいけないんだ?


「神隠しの原因は何なんですか? 犯人は?」


「原因は不明だ。犯人も不明だ。だが、ホームルームで説明しただろう? あれだけ監視体制を強化したんだ。もう起きないよ」


あとは1人で考えたいな。教室に戻るとするか。


「先生、お忙しい中ありがとうございました。失礼します」


「ああ。また何かあったら訊きに来い」


「はい」


オレは校内の自販機で飲み物を買った後、教室に戻った。



 いなくなったオレのクラスの生徒、佐々木君・安藤さん・久保田さんの3人。

この3人に共通点があるのか? …ダメだ。思い付かない。


無差別の可能性もある。手掛かりがない今、これ以上考えても無駄だろう。


ただ、久保田さんを神隠しさせたのは絶対に許さない。

人のせいなら、必ずそいつは地獄に落ちるべきだ。



 その日の帰り道「あの~」という声が突然聞こえた。

周りを見回しても誰もいない。聞き間違いか?


そう思って歩き出した時「しまった。認識阻害がオンになってた」という謎の声が聞こえた。さっきから何なんだ?


不気味だし早く帰ろう。そう思って歩くスピードを早めたら、肩を叩かれた。

振り返ると、白い羽をパタパタさせて浮いてる少女が後ろにいた。


「え?」

天使に見えるけど、現実にいる訳ない。疲れているのかな? オレ。


「急に声をかけた私が悪いですけど、逃げなくても良いじゃないですか~」

急に怒り出す天使っぽい女の子。


「えーと、君は? オレに何の用なの?」


「私は天使のビアンカです。実は、あなたから変な気配を感じたので声をかけました」


「変な気配?」

この子以外にも憑かれているのか?


「あなたの周りに、悪魔の力を使っている人はいませんか?」


「はぁ?」

天使やら悪魔やら、急にファンタジーな話が出てきたな。


「あなたから、悪魔の力の残滓を感じるんです。間違いありません」


そんなこと言われてもな。悪魔と友達にはなってないぞ。



「じゃあ質問を変えます。ここ最近、不可解なことが起きていませんか?」


その質問を聴いた時、胸が締め付けられる感じになった。

不可解なこと。起きているじゃないか。


「それならある。しかも複数回な」


「その原因は悪魔の仕業です。しかも犯人は、あなたのすぐ近くにいます」


「何だって!?」


信じられない。それでも心当たりは全くないな。

近くってどこまでを指すんだ? 家に帰ってじっくり考えるか。


「そうでなければ、あなたに悪魔の力の残滓が付くことはありません。…そうだ。これをお持ちください」


そう言って、ビアンカは鈴を渡してきた。


「これは?」


「見ての通り鈴です。困った時は鳴らしてください。駆けつけますよ」


「何でオレにそこまでしてくれるの?」

当然の疑問だろう。天使であっても、見返りを要求するかもな。


「私はこの地域を守るエンジェルガードの一員なんですよ。日本で言う、警察みたいなものですね」


なるほど。ビアンカが気にかけたのは、あくまで仕事か。

信じるにはまだ情報が足りないけど、今はこの辺で良いか。


「わかった。何かあったらこの鈴で呼ぶからよろしく」


「はい。…そういえば、あなたの名前を訊いていませんでした」


柳林太郎やなぎりんたろうだ。よろしく。ビアンカ」


「はい」


そう言って、姿を消したビアンカ。さっきの独り言で言ってた『認識阻害』をオンにしたんだろう。



 ビアンカの言う事全てを信じたわけではないが、手掛かりをつかんだのは大きな一歩だ。オレは久保田さんの仇を取るんだ。絶対に。

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