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「ただいまー」

 すっかり遅くなってしまった帰宅時間。

 外が真っ暗になってからの帰宅に、私は家の中に入って、玄関先で声を張る。

「真奈美?!」

 声がして、敬子さんがぱたぱたと足音を立てて、玄関先に走り出て来た。

「何でこんなに遅く帰ってきたの?! 心配するじゃない?!」

 あ、と思う間もなかった。

 敬子さんは、私に走り寄ると、そのまま、私に抱き付く。

「あなたが、またあんな事故に遭ったら、って思ったら。……私は、私は」

「敬子……さん」

 私は呆然と、敬子さんにもう一度、そう、問いかける。

「勝手に外出した私を、責めないんですか? いつもだったら、外に私が出て、遅くなったりしたら、『心配』するよりもむしろ、怒っていた筈」

「――」

 急に敬子さんが顔を上げ、両腕を私に回したまま、私の目を見上げた。その目が、潤んでいる。

 張りつめていた、私と敬子さんの境界線の、「線」が少し緩やかになったような気がしたのは、私の気のせいだったのだろうか。

 だが結局、敬子さんは黙って私を腕の中から解放すると、

「さ、ご飯はどう? 食べて来た? もしまだ食べていないんなら、作りすぎた晩御飯のおかずが山ほどあるから」

 そう言って、先に立ち、食堂の方へと歩いていく。

 敬子さんが、顔に手を当て、苦しげに咳払いをするのが見えた。

……何かを、「呑み込んだ」んだ。

 私は訳もなくそう感じ、それ以上、敬子さんに何も聞くことが出来なかった。


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