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がちゃがちゃ、と音を立てて、私の部屋の鍵が開く。
「……それで、何を探しにいらしてたんですか?」
高杉さんが聞いてくる。
「私の、勤めていた会社の住所などの書いたものを、探しに。うちの姉、私の家の住所は、姉の家の住所録に書き留めてあったので、メモしてここまで来れたのですが。会社の住所などを書いた記述がなかったので、会社へ行くことができなくて。こっちの家に戻ってくれば、手掛かりも見つかるかなあ、って思って来てみたんですが」
私にとっては、恐らく数か月ぶりになる、「我が家」への帰宅。だが、その部屋の中の光景も、私には何の記憶も思い起こすことはなかった。
「ダイアリーとか、住所録とか。……後、考えられるのは厚生年金手帳とか……」
私は口の中で呟きながら、自分の部屋のパソコンデスクの周りを見て回る。パソコンデスクは真っ白で丸いカーブを描いた形で、上にはノートパソコンが置かれていた。
「本棚を見てもよろしいでしょうか?」
高杉さんが聞いてくる。
「ええ、どうぞ。住所録とかがあれば手っ取り早いと思うんですけど」
「後は、手紙とか……かしら?」
「あ。それなら、ちょっと玄関のポスト、見てきます。確か、入る時に何か溜まっていた筈」
「はあい、いってらっしゃい」
高杉さんの声に送られて、私は玄関のポストの蓋を開いてみる。一人暮らしの割には十数枚の手紙が溜まっていて、私は、その差出人を確認するのに苦労した。ちなみに、新聞がなかったのは、恐らく敬子さんが止める手続きをしたからなのだろう。
「これは、ダイレクトメールかな、これ……も」
私は口の中で呟きながら手紙を分離する。その途中で、
「大内さん?!」
高杉さんが高い声を上げるのが解った。
「はい?! 何か見つかりましたか?」
私は、手紙の束を手にしたまま、高杉さんの元に向かう。
「……これ。どうでしょう?」
「これは……」
高杉さんが指し示したもの。
それは、本棚の隙間にあった、私の名前の書かれた、会社の名刺だった。
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