「それじゃ、行ってきますからね?」

 敬子さんが出て行くのを見送って、私は全身脱力し、ベッドの中に顔を埋める。

 敬子さんが出て行った後で、私はいつも、自分がどれだけ彼女の前で気を張っていたのか、ということに気付かさせられる。

――子供じゃないんですから。

 不意に、私は先程自分が敬子さんの前で、呑み込んだ言葉を思い出す。

 今のままの私と敬子さんなら、本当に「子供」と「親」なのかもしれない。もしかして、それは、私が私のままなら、ずっと「そう」なのだ。

……何かを、変えなきゃ。

 私は、そんな言葉を胸に浮かべる。そして、それを浮かべた後で、ううん、と自分にかぶりを振る。

――「私」が、変わらなきゃ。

 ベッドの上で、私は寝返りを打ち、天井の方へ、目を向ける。

 案山子のように両手を広げ、布団の上に寝っ転がった私は、空の案山子だ。

 何もかもが、何もかもの可能性が、この伸ばした両腕の中にある。案山子は案山子であることを辞められない。けれど、私は一人の「人間」だ。

 見上げた天井の上に、私は見えない「空」の姿を見る。

……私は、まだ、「空」へ羽ばたけるだろうか。

 ベッドの上で、私は右手を強く握りしめる。

――よし。

 私は、ベッドの上に、勢いよく飛び起きる。

――新しい「私」を、始めてみよう。

 疲れが、消えていく。私が、「私:を呼吸する。


……私は、そうして、「私」の境界線をまた少しだけ、広げ出す。

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