14話)サリーちゃんは困ったちゃん! でも、このままじゃいけないよね

 ちっちゃな女の子が、トテトテと一生懸命走ってくる。

 トイプードルとかシーズーとか、小型犬の、それも仔犬がご主人さまを見付けて尻尾を全開で振りまくって駆けてくるような感じ。

 なんて、愛らしいの!

 飛び込んできたら! 無条件でっ! もう力いっぱい、抱きしめてあげる!!

 

 あれ? あの子、私は見てない?

 って、そりゃそうか、行くのはセシルさんところだよね。

 セシルさんは厳しい顔だけど。


「バカ!」


 最初に行方不明になった、孤児院で一番小さいサリーちゃんを抱き上げると、セシルさんはいっぱいの叱り声。でも、ぎゅっと抱きしめて、

「心配、したんだから……。心配、させないで……」

「セシルお姉ちゃん?」

「よかった、本当に、よかった。無事で……」

「おねえ、ちゃん……」

 セシルさんの涙に、サリーちゃんもついに、

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 わんわん泣きだした。

 その背をセシルさんは優しく優しく、なでてあげる。お姉ちゃんというよりもう、母親みたい。


 う、うらやましいぃ……。


 じゃなくて!


 セシルさんのほうがよっぽど聖女よね。

 子供たちをずっと、ずっと森のなかで見守ってきたわけでしょ。老シスター、パトリシアさんがいるうちはまだよかっただろうけど。亡くなってからは「私がしっかりしなきゃ」って、気丈な長女だから邪険にする村の人たちは頼りもせず。それはしんどいよね。

 それが今回、なんかよくわからないうちに一人、二人と弟妹達が消えていって。

 でも、残された子たちもいて……。

 心配しないはず、ないじゃない!

 眠れない夜が続いたはず。

 私を警戒していたのも、絶対に今回の事件が……、ううん、それがなくてもセシルさんは子供たちを守ろうと必死になっていたはず。

 

 泣きながら抱き合う二人。

 それが合図になったようで、消えていたはずの残りの子供たちもオークの牧場の牛舎からぞろぞろと出てきた。

 教会の孤児たちは、合わせて12人。

 牛舎から出てきた子たちはでも、状況がよく分かっていないみたい?

 教会に残された子たちに泣いてしがみつかれたり、抱きつかれたり。牛舎の子たちは年長さんたちなのに、それにおろおろ。


 事の真相はこういうこと。


 ある日♪


 オークさんに、出会ったぁ♪


 迷った森のなかでぇ、オークさんに、出会った♪


 サリーちゃんは冒険好き。


 目を離すとふらふら怖いもの知らずに、どこへでも一人で行っちゃう。セシルさんもそれには困ってたらしい。年長さんがいつもサリーちゃんから目を離さないようにはしていたそうだけど。そんなにずっと張り付いていられるわけない。サリーちゃんのほうがその手を振りほどこうとするならなおさら。

 その日も、森で遊んでいるうちにサリーちゃんはちょうちょを追いかけて……、それって、かわいすぎない?

 と、コホン。

 ばったり、森の奥でオークに出会った。

 普通ならもちろん逃げ出すところ。

 でも、サリーちゃんは何にも怖がらず、

「もふもふさん、もふもふさん」

 と、なついてしまう。

 サリーちゃんには不思議な力もあって、まあ小さい子ってそんなところあるけど、私のスキルみたいにオークとも意思疎通ができたんだって。

 モンスターを恐れない、それどころか抱きついてきちゃう、小さな人間の女の子。オークの慌てる様子こそ、目に浮かぶよう。


 もう夕暮れ。

 サリーちゃんは「帰りたくない!」なんて、眠気もあったんだろうけど、駄々をこねてオークたちを困らせた。

 オークって、体は大きいけど、実は穏やかな性格。ゴリラやオランウータンもそうだって、動物番組でもいってたけど、体の大きな動物って、おとなしいのは多いよね。でも、自分たちの姿や大きさが人間に恐怖を与えることをオークは知っている。いわれのない迫害も昔は受けていたんだって。

 それにサリーちゃんを巻き込んじゃいけないって考えるの、ほんと、オークってけなげよね。見た目に似合わず。いい人って、案外そんなもんよね。


 私みたい。

 違う?

 何よっ!


 とにかく、オークはなんとかサリーちゃんを教会に戻そうとしたんだけど、駄々をこねる子供は強い! 自分がこの世で一番強いって思ってる!! 結局、オークは一晩、牧場でサリーちゃんを預かることになっちゃった。

 ところがその翌日もサリーちゃんは、

「いや! ここでもふもふさんたちを手伝うの!」

 って、聞かない。

 そりゃね、オークたちの大きな手、強すぎる力だと、細かな作業が出来なくて、どうにも困ることもあったんだろう。サリーちゃんも一晩だけで、それに気づいたんだ。

「みんなを連れてきて! ここならいっぱい食べ物もあるし、ここでみんなで暮らせばいいじゃない!」

 それに乗っちゃったオークも反省ものだけど、ともかく、それで、サリーちゃんを探しに来た一人ずつ……。


 現実のミステリーなんて、ふたを開けてみれば、「あ、それだけのこと」って、そんなものよね。


 今日はもう、教会に残る全員をいったん牧場に呼び寄せようとして……。

 モンスターにおびえる私たちが勝手に勘違いしたって、ところ。


「バカッ!」

「ごめんなさぁい……」

「まあまあ、セシルさん。みんな無事だったんですし」

「そ、それは、そうですけど……」


 それに、セシルさんが怒るに怒れないことがもう一つある。

 実は、オークたちに牧場を開くことを提案し、その指導までしたのが、先ごろ亡くなったパトリシアさんだったんだって。


『これより先、入るべからず』


 看板立てて、「呪いあれ」なんて冗談みたいなことまで書いて人避け。

 教会のみんなにもいわず、一人でオークと村人がいらないいざこざ起こすのを防いでいたみたいだけど、シスター老パトリシアって、けっこうおちゃめな人だったんじゃ……。

 でも、オークとも会話できたってこと?

 不思議ですごい人だったような気がする。

 そりゃあ、魔女ともいわれるか。


「ダメです!」

「いぃやああっ!」

「サリー、ここはダメなの!」

「なんで? なんでなんでなんで!」

「オークたちと暮らすなんて、出来ないから!」

「もふもふさんたちがかわいそうだよ!」

「オークと人間は違うの! 一緒には暮らせないの!!」

「同じだもん!」


 ……って、なんか、私がオークに牧場案内されているうちに、セシルさんが子供たちともめてる?!

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