13話)オークの牧場へ ……これって?!

 あれ?

 オークの様子がおかしい?


 なんか、慌てふためているような。

 仲間が倒されて?

 怒りに任せて、今度はもう全員で……、って、そんな感じじゃなくて。

 そういえば、けものくさいまき散らして包囲してくるけど、私の極小範囲〈ホーリーウォール〉にさわるような距離にも近づいてこない。


「クローネさま!」

「聖女さま! ダメ!」


 みんな止めるけど、私、行かなくちゃ。

〈ホーリーウォール〉

 じゅうぶん戦ってくれたセシルさんも、子供たちも守ってね。

 万が一はあるし。私のバカな思考が間違っているってことは大いにあるし。


 オークも代表が出てきた。

 一対一。

 戦いじゃない、話し合いだ。


 〈「聖女の言葉」〉


 そのスキルのレベルがアップしたら便利な翻訳機能になる。

 だから私、世界が変わっても言葉に不自由しなかったんだけど。

 MAXは「全通話」。

 モンスターでも知性があれば念話で通じちゃう。

 ゲームだと難関イベントもそれで攻略がスムーズにって、「実は……」な、隠しスキルのようなものだったんだけど、まさかここでそれが役に立つなんて。


 あ、やっぱり話が通じそう。


「クローネさま!」

「大丈夫、私に任せてください」

「でも……」

「彼らの話を聞きましょう」


 セシルさんが不安に顔を青くするのもわかるけど、話せばわかるはず。……って、雰囲気がある。うん。そのはず。

 ……コミュ障の私にあんまり期待しないで!


 って、……。

 え? そうなの?!

 うそ……。

 どういうこと?

 ふん、ふん……。

 つまり……。


 広範囲〈ホーリーウォール〉は「悪意」のある【敵】をはじくわけで……。


 私はギギギと、錆びついたおもちゃのように振り返る。

 意外なオークの話、成り行きに、ちょっと自分でも信じられないんだけど。


「あのぅ、セシルさん?」

「は、はい!」

「行きましょう、か」

「はい?」


 戸惑うセシルさんだけど、そうだ、まずは傷を治してあげなきゃ。

 オークたちもね。


 これが友好のあかし。


〈ホーリーヒーリング〉


 ああ、これこれ!

 これこそ聖女さまの本領よね!

 私も大好きなんだ、この魔法。癒しの力。


 雨上がりの朝、雲間から放射される天使の梯子はしごのような白い光。

 聖堂を包む。

 温かいシャワーが降りそそぐ。

 讃美歌が効果音としてはよく似合う。

 瑞々みずみずしい輝光きこうが私たちを癒していく。


 ああ……。


 現実で発動させると、私までこんなに気持ちいいんだ。

 冷たいトンネルを抜けて、陽の温かさに再会したような。

 真冬の温泉に入って、ほうと息をつくような。

 く、くせになりそう……。

 新たな性癖が目覚めそう……。

 これ以上、変になったらどうしてくれるの?!


 あ、立ちくらみ……。


「クローネさま!」

「聖女さま!」


 ジョン君がまず、駆け寄ってきてくれた。

 そして、みんなも。


「大丈夫です」

「でも……」

「心配してくれて、ありがとう。思った以上に消耗しただけですから」


 そう、すっごく疲れる……。

 たとえとしたら、10kmくらい泳いだあと、陸に上がって重力感じて、ずんと体が地球に引き寄せられるような。……もちろん、私は10kmも泳げないんですけど! はい、見栄はりました! 25mでも、ヒィヒィいって、なんとかおぼれず泳ぎ切って、笑われたってもう知らん、陸に上げられた魚ってところ、私に例えられるならそれしかない。

 これ、連続は無理だわ。

 セシルさんも、セシルさんにのされたオークも傷が癒えて元気になったけど、私の体力を分けたみたい……。魔法が強力なのはいいけど、私自身の体力上げないとその強力さに自分自身が負けちゃうってことか。

 気を付けよう。

 体力付けるために運動……、は、したくないなあ。しんどいのはダメだわあ。

 とことん、私ダメ人間。

 テヘ。

 って、みんなに介抱されているのに甘えてちゃ、それこそいけない。


「さ、さあ、みなさん、準備してください」


 そう、真実を知りに。


 私たちは全員、オークに抱えられて出発。

 森の反対側へ。

 セシルさんは最後まで抵抗していたけど。

 オークへの警戒が薄れていないこともだけど、亡くなったシスターから、そっちに行ってはダメときつくいましめめられていたんだって。

 今でもそれを守ろうとするなんて、愛だなあ。

 

「私を信じてください」

「はい……」


 これも愛よね!

 偽りだけど。

 いやまあ、セシルさんは大好きだよ、もう本当に。

 でも、それとこれとは、ねえ?


 オークはその凶暴な見た目と違って、すごく優しかった。

 私たちを肩の上とか、抱き上げてとかで、あんまり揺らしもせずにゆっくり歩いてくれる。

 子供たち、とくにやんちゃなミアちゃんなんて、キャッキャと喜んでる。馬に乗ったことなんてないけど、きっとそれと同じ感覚なんじゃないかなあ。私も、このもふもふは癖になりそう。

 他の子たちもだんだん気を許しているのがわかるし、セシルさんだって、なんか顔が緩んできてる? 実はセシルさんて、動物好きなんじゃないかな? 普段、子供たちの前で気を張っているけど、根は繊細な女の子、そんな気がする。


 そして、やってきました。

 はい、ここはオークの牧場。


 そう、オークは牧場を開いているんです。

 牛を育てて、ミルクを絞って、それが彼らの主食で。

 あとはそれでなんと、乳製品のようなものまで作っちゃう。

 文化的にオークは暮らしいるんです。

 野蛮なモンスターなんかじゃなかったんです。


 そして、そこには……。


「サリー!」

「セシルお姉ちゃん!!」

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