12話)ちょ、ちょっと、待って! 私にバトルは無理ムリ!! セシルさん、代わって!!

 決めた!


 本当に、決めた!!


 心に誓う。

 神にだって、誓う。

 ……あれ? この世界の神って……、あのすっとぼけたおじいちゃんか?


 そこはもう、この際置いといて!


 私、子供たちを守る!

 マンガ脳的に護るって、そういってもいい!

 私がこの世界に呼ばれた意味はそれなんだ。

 今こそ、分かった!!

 聖女さまだからって仮面の理由付けももういらない!


 覚悟、決めた。


 この世界で、私は子供たちと生きる。

 異世界スローライフ、天使たちと共に!

 天使たちの成長と行く末を見守る聖女さま。

 孤児院運営? 先生、かな?

 そう、それでいい!


〈パッパッカパーン!〉


 あら、なんか、からかわれたみたいな音?


 そりゃあ、多少は……。

 大いに! 私情入りましたけどっ!


 

 ところでさあ。

 正解だろうが間違いだろうがあ。


 ピンチを抜ける方法も示しなさいよ!

 今はオークの大群に囲まれて大変な時!!

 それを切り抜けられるかどうかを教えなさいよ!

 ほんと、役に立たないチートなんだからぁっ!

 パンパカとか、デデデンとか、そんな何にもくれない効果音なんていらない!!



 --- --- --- ---



「ここは危ないです。逃げましょう」


 そう、やっぱり、それしかない。

 オークの大群迫るなか、古びた教会での立てこもりは逆に危ない。

 効果音なんて頭に響かないけど、そんなのいらないし。


「でも、どうやって?」

 セシルさんがまた暗闇のなかで惑うような不安な顔に。

 猫顔がなんかしおれちゃってる。……ちょっと、ちょっとだけ嗜虐心しぎゃくしんをくすぐられたのは内緒。


「聖堂へ向かいましょう、みんなで」

「でも、あそこではすぐに大扉からオークたちが……」

「逃げるのです。閉じこもっていてはいけません。そのために」


 こんなとき、隠れちゃダメなの。

 一見、安全そうに見えても、囲まれたらじり貧になっちゃう。大群に押し込まれたらもうダメ。逃げ道なんてなくなる。

 ゾンビゲームなんかのお約束。

 広い場所のほうが、そして外へと飛び出したほうが、結局命は助かるの。

 うんうん。

 我ながら、マンガ脳、ゲーム脳も役に立つじゃない!


 震える子供たちを大丈夫、大丈夫と励ましながら、オークの足音が迫るなか、私たちは聖堂へ。

 昨日はここで、私の歓迎会をやってくれていたのよねえ。

 なんか、もう遠い昔のことに……。

 って、そんなバッドエンド一直線の回想なんてやってる場合じゃない!


 来た。


 聖堂に到着すると、向こうもそれを察知したのか、大扉に手をかけて力任せ、強引に破ろうとしている。ガチャガチャ、ドンドンって、大きな音がもう聞こえる。重い大きな木製の頑丈な扉も、もう塗装もげてかしいでるから、オークの力なら鍵なんて関係なく壊されちゃう。

 ちらりと見れば、モザイクガラスの向こうにも、大きな影がいくつも見える。

 押し寄せてくる大波。

 台風が過ぎ去るのを待つしかない心細さ。

 いや、自分でいったでしょうが、今は待つときじゃないって!

 私のカナリアのような可憐でか弱い心臓(嘘つけ?!)はキュッと締め付けられる。

 あの手に握りつぶされたらイチコロよね……。


 落ち着け、私。

 深呼吸一つ。


〈ホーリーウォール〉


 もう一度。でも、ぎゅっと絞る。 

 最小に。

 私たちだけを守る。

 それなら、敵意も悪意も関係ない、鉄壁を超えた、無敵の防御になる。

 薄い紙だって折りたためばたたむほど、ハサミで切れなくなるように。


 私、バトルなんて苦手だから防御魔法は特に極めたのよね。


 しかも!


 壁をタイミングよく相手にぶつけて弾き飛ばす!


 そんな必殺技編み出して、聖女なキャラでも、ゲームの闘技場ではほぼ無敵だったんだから。


 ……ま、闘技場なんて、必要なければ絶対行かなかったけど、ゲームのなかでも。


〈ホーリーランス〉


 杖でも小枝でも、魔力付与エンチャントして武器にするって、聖女の数少ない直接的な武装技なんだけど……。


 ゲームのなかならともかく、私に武器なんて扱えるわけないじゃない!

 現実にケンカなんて、したことないっ!


 そもそもよ、考えてみてよ?!


 現実世界だって、ゴリラもおりの中にいるからイケゴリとかなんとかのんきにいえるんであって、野生のそれが目の前にいて、ただの女子高生が「怖い……」以外の言葉いえる? 逃げることさえ足がすくんでできるわけないっ!

 立ち向かおうとしているだけでほめてほしいものだわっ!


「貸してください、クローネさま!」


 セシルさん?


 おろおろしていると、私の手からさっと光の白い槍を奪い取れば、一陣の風をまとって走り出す彼女。ついに扉を破って入ってきたオークの一人に、セシルさんは砲弾のごとく猛然と突っ込んでいった。


 なんか、すっごい、たくましい!


 キュアッキュアでキラッキラに強い女の子たちが戦うアニメを思い出す。

 日曜朝の至福。

 私、今でもあのシリーズ好きなのよね。

 自分よりも大きな大きな相手に敢然かんぜんと立ち向かう!

 女の子だって、やればできる!


 華麗に舞う。

 鈍重どんじゅうなオークを翻弄ほんろうする。

 右から左から、ときに下から上から、「エイッ!」「ヤアッ!!」って、甲高い声もまるでアニメそのもの。ううん。それ以上。セシルさんはまるで、しなやかなヒョウ。猛る巨象を相手に戦っているみたい。すっごく、きれい。


「すごいだろ、セシルは! 前に盗賊が教会に忍び込んできたときも一人で撃退したんだぜ!」


 あらあら、リュウ君ったら、すっかり恋する男の子の顔ね。

 さっきまであんなに震えていたのに。

 聖女さま、ちょっと妬けちゃう。

 でも、リュウ君がまるで自分のことのように胸を張るのも分かるわぁ。

 セシルさん、確かにかっこいいもん。


 あ、それ!

 そこ!

 あっ、危な……、

 くるりとかわして、うわ、すご。

 

 なんか、語彙力ごいりょく喪失。

 おバカなおまえにそんなものは始めからないなんて、いいっこなしね。


 お、追い付けない……。


 って、いってる間に、もう3人? って、そんな数え方でいいんだっけ。のんきなことを考えられる余裕も生まれるほど、あっという間にオークを倒しちゃった!


「セシルさん、すごい!」

「クローネさま、みっともないところを……」

「いえいえ、そんな! 素敵です!」

「ありがとう、ごさいます……」

 ぽっと頬を赤らめるのは、激しいバトルで息が上がっているからだけじゃないよね。そういえば、いつの間にか私のこと「さま」って?


 なんか、またセシルさんの心をもてあそんじゃった?


 ……ま、いいっか!

 かっこよかったのは本当だもん。


「あんなのどうってことない!」


 あらあら、リュウ君ったらねちゃって。いわあ。ふくれたほっぺをツンツンしたくなっちゃう!

 セシルさんの熱いまなざしが私を見ていることに気づいちゃったのね。

 でも大丈夫、リュウ君だってワンチャンあるよ。

 私にその気はないから。


 って……、


「危ない!」


 オークはまだまだたくさんいたんだ!


「セシルさん、下がって!」


 もうセシルさんの息も上がってる


 どうしよう……。


「キャア!」


 ひな鳥の悲鳴でとっさに振り向けば、ああ、後ろからも……。


 すっかり、聖堂に入り込まれちゃった。

 こうなるともう……。


 ゲーム脳、大失敗!?

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