10話)平和な朝 これよ、これ! これが私は欲しかったの!! ……あれ、何やら不穏な……

 私、ちょっと考えた。


 昨日の夜いろいろあって。


 っていうか、昨日はいろいろありすぎて。

 朝まで寝付けなかった。


 これから、私、どうなるの?

 私、何がしたいの?

 この世界で何をすればいいの?


 前世じゃ、そんなの考えたことない。

 陰キャといっても、まだまだのんきな女子高生。

 将来のことだって、まだまだ遠い先のことにしか思っていなかった。

 日々をいじめからどう生きるか、ネットに上がる子供たちの笑顔に癒されながら、それしか考えられなかったところもあるし。


 そりゃあ、「子供に関わる仕事したいな」って、漠然ばくぜん妄想もうそうしてデヘヘってしてたけど、ネットで「現実は甘くない!」なんて、あれやこれやを見たら尻込みする、その程度だったし。


 だいたい、何の力もない女子高生が、何のとりえもなくて、何ができるっていうんだか。

 ……いっててむなしくなるけど。


 でも、今は何だか、考えなくちゃいけない気がする。

 この力が、この姿が、それを訴えるの。


 いやいや。

 違うよ。


 世界を救うんだ!

 勇者になるんだ!!

 この力を生かして、魔王を退治して、俺がヒーローだ!!!


 って、そんなラノベ展開じゃない。


 私の力は実際のところ、戦闘向きではないし。

 昨日、派手な魔法のわりにはオオカミを追っ払うことしかできなかったことでもあらわれているし。


 もっとも、〈聖〉属性の魔法だから、〈魔〉属性に対しては無類の力を誇る。

 そんな〈魔〉族なんて、この世界にはいないと祈るばかりだけど。

 いたらつまり、それと戦わないといけないわけ?

 私、聖女さまだから。

 

 そんなの、絶対に、いや!!


 と、思考は巡っていたわけ。


 出来れば、のんびりスローライフな転生生活がいいな。


 自分でいうのもなんだけど、私の前世、けっこうハードモードだったと思うから。


 そう、ここでなら……。



 --- --- --- ---



「おっはよぅ!」


 痛った!


 元気なミアちゃんが思い切り私のお尻を叩いてきた。

 魅惑のヒップがまた大きくなっちゃう。


「イタズラはいけませんよ」

「はーい」


 叱ってみちゃったりしても、テテテと駆けていった向こうでみんなとくすくす笑ってる。

 ちらっとこっち見て、野イチゴのような小さな舌をべえって。


 キュートッ!


 プリティ! チャーミングッ!!


 朝から私を昇天させる気!!


 天使はやっぱり、何をしても天使よね。

 そばかすなんて、気にしちゃだめよ、ミアちゃん。


 ああ、この天国、ずっと居続けたい。


 そう、これ!

 これなの、私の求めているものは!!

 きっと私がここに呼ばれたのも、天使の笑顔を、天使の行く末を見守るためなのね!!


 神さま、ありがとうーーーーっ!!


「おはようございます」


「あ、あの……、お、おはよう、ございます」


 セシルさんは真っ赤な顔を伏せちゃったけど、気にしない。


 こちらが意識しなかったらいいの。

 そしたらね、向こうが勝手にがっかりするもんなの。


 ……私の、経験則。


 夜明けのモーニングコーヒー。

 初めてが女の人と。

 ああ、熱い夜を思い出す。


 って、そこまではいってないし!


 だいたい、私、17歳!

 本当はただの女子高生!


 あの後すぐ、「おやすみなさい」で別れましたから!

 セシルさんはなんか茫然としてましたけど。


 勘違いさせてごめんなさい!

 私が好きなのは子供たちなんです!!

 子供たちのためにも、お互いの純潔は守りましょう!!


 勝手かなあ……。


 セシルさんも純情よね。

 こんな森のなかでずっと子供たちだけを見て暮らしていたわけでしょ?

 おばあちゃんシスターのお手伝いしながら。きっと育ての親以上の想いを寄せながら。

 その純情をもてあそんだようなものじゃない?

 この私が、この陰キャな私のほうがもてあそぶ側かよ?!

 私の人生でそんな展開が起きるなんて……。


 魔女の書斎に戻ってずんと落ち込んで、それもあって悶々と眠れなかったのよねえ……。


 ああ、落ち込み癖、こっちに来ても治らないわ。


 治る気しないわ……。


 でも、朝は来る。

 爽やかな朝!


「おはよう」

「おはようございます」

「クローネさま、すぐ朝ごはんの支度しますね」

「ありがとう、ジョン君」

「あー! ジョン、聖女さまに気に入られようとしてるぅ!」

「か、からかうなよ、ケイト! ち、違うし!」

「フフフ……」


 これ、これなの。この平穏。

 子供たちの元気な姿。

 ほほえましい顔、あっちも、こっちも。

 良き、良きよっ!


 朝を迎えられて良かった。


 どこにも間違いなんてない!


 勝った、勝ったのよ!


 オー、ホホホ!


 心のなかで高笑い。

 それを打ち消す、不穏な気配。


「た、大変だ!」


 水を汲みに行っていたリュウくんが駆け込んできた。

 セシルさんの顔がきっと引き締まる。

 私に向けた顔はもう、子供たちを守る騎士のような引き締まったそれに変わっていた。


 わ、私にできることって、何があるのかな?

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