走馬灯)私のドジなんてかわいくもなんともない ああ、もう終わりなの……

 つんのめった姿勢で、私の時間は止まる。

 実際には止まっていないんだろうけど、止まったように感じる。


 走馬灯。

 実物なんて見たことないけど。

 死ぬ間際って、過去のことを思い出すっていうよね。


 ああ、いやな過去ばっかり。


 私は陰キャで、目立てなくて、目立つことが嫌で。

 光ある場所になんて立てなかった。


 光の下に引き出されたら、あたふたして、あわあわパニック。

 そんなことだから、発動、ドジ。


 かわいい子がドジって、テヘ「失敗しちゃった」なんて笑うなら、かえってかわいさ倍増。

 (はっ倒したいけどね!)

 男の子の受けもいいんだろうけど、陰キャ代表の私のドジなんて、かわいくもなんともない。

 こけたり、ぶつかったりしたら、くすくす笑われるだけ。

 そうだ、あの時も、あの時も……。


 ああ、いやなこと思い出したらなおさら思考がドツボに……。


 あの時だって……。


 良子よしこたちは「いじり」なんて程度に思っているんだろうけど、からかわれている方はたまったもんじゃない!

 もうダメ、限界!

 ついに切れて、ぶちぎれて!!

 私の机にぽいと置かれたゴミを、投げ返そうとしたら……。

 運動神経が壊滅している私、机にガンと手をぶつけて、痛ったぁ!

 振り向かれたら、その顔を見たら、それこそダメ。

 できない、いえない。

 エヘヘとひきつった笑いでごまかしたら、なんかもう、例のあの黒いカサカサ動く虫を見る顔されて出ていかれた。


 くぅっっっっそう!


 って、その時は地団太じだんだ踏んだけど、でも、やらないでよかったって、今では思ってる。

 きっと私、そのまま勢いで、ゴミだけじゃなくて、とんでもないものも投げていた。だって、あれは美術工芸の時間。目の前には、授業で使っていた彫刻刀が光っていたから。

 先生には「扱いには気を付けて!」っていわれてたけど、それもあって目の前にあるのさえ怖いものだったけど。自分の指を切るだけならいい。でも、もしもそれを……。


 考えただけでぞっとする。


 あの時だけは、自分がドジで良かったって、家に帰ってから膝から崩れ落ちるほど力が抜けたけど。


 でも、なんで、こんなときに、こんなこと?


 走馬灯を見る意味って、大人気のマンガで「生き残る可能性を記憶から探るため」とかなんとかいってたけど……。

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