8話)ドジ! 私のドジッ!! 全然、かわいくないドジ!!! これでジ・エンドなんて!!

 コンマゼロ何秒の世界が終わった。

 神さまのおじいちゃんは頭のなかから去った。


 引き戻されたのは現実。

 時間は真夜中。

 場面は教会の暗い廊下。

 子供たちの寝室の前。

 そのドアノブに手をかけている不審者の私。

 数メートル先に、すっかり身構えている保護者のセシルさん。


 よし、状況把握終わり!


 ……。


 さい、あく、だーーーーっ!

 なにもかわってなーーーーーいっ!

 まさに、選択肢を間違った状態!!


 いやいや。

 だから、これをどう取り戻せと?!


 取り戻す?


 そうだ!


 私はまだかわいい天使たちの部屋に入っていない。

 言い訳はできる。

 セシルさんを説得さえできれば!


「ご、誤解です……」


 ああ……。


 口がうまく回らない。

 ひきつった顔からは、聖女の仮面がはがれているのがわかる。

 すっかり動揺して、〈ライト〉の魔法も消え果てた。

 雲が出て、月を隠してくれてよかった。

 そんな顔見られたらもう一発で、犯罪者認定(天使たち、サヨウナラ)、不審者として警察(この世界にもあるの?)突き出されて、魔女裁判(おじいちゃんの口ぶりだと、それはあるのよね!)。


 そして、火あぶり!!


「あ、あの、セシルさん……」


 あ、もう何も聞かないって、感じ。

 無言でじりじりあとずさり。

 逃げられる?

 ううん。セシルさんみたいな責任感の強い人が、子供を放っていくとは思えない。

 きっと反撃のチャンスをうかがっているんだ。

 隙を見せたら……。


 チャンスは少ない!


 それでも説得しなくちゃ。


 出来るの、私に?


 心のなかにはいっぱい、いっぱい呪いの言葉(?! そんなにひどくないよ。ちょっと、ちょっとね、人にはいえないことを思うだけ。ため込んでるだけ。本当なんだからね。ね? ね!)。

 でも、それを口から出すことなんてできない、できるわけがない。


 私が無口なのは、私の心にあふれる汚い言葉(自覚はしていますよ!)を外に漏らさないため。ううん。それよりなにより、自分をどう表現していいかわからないから。


 だって、本当の私を見せるなんて怖いじゃない?

 本音じゃなくったって、何をいえばいいの?

 私が話せば、みんな固まるんだもの。

 一生懸命取りつくろっても。

 何とか、みんなに合わせようとしても。

 場の空気が読めなくて、みんなが期待することいえなくて。

 そしたら、みんなして私のことをじろりとにらんで「何いってるんだこいつ」「黙れよ」って。


 その目が怖いもん!


 みんなも同じよね、ね? ね!


 ああ、誰に何をいっているんだか……。


 今はそう、たった一人に伝えることが大事なのに。


 信じて、信じてください、セシルさん。


 それを心を込めて。

 それだけでいいはずなんだから。


 がんばれ、私!

 今こそ、聖女さま!!


 にじり寄るようにセシルさんのもとへ向かえば、セシルさんは動かない。

 セシルさんも怖いのかな?

 そりゃそうよね。

 クローネの私、セシルさんより背も高いし。

 暗幕を引いたような世界で、息も荒くして不審者に迫ってこられたら、ちょっとしたホラーよね、それは。身も硬くするよね。私だって……。ううん。私だったらもう、しゃがみ込んじゃう。強いなあ、セシルさんは。

 でも、来ないでって、汚物を見るような顔をされるのは何だかなあ……。

 さすがに傷つく。

 ……誤解と恐怖を与える私が悪いんだけど。


 ハハハ……。

 なんかもう、絶望的?

 終わってる?


「あ……」


 ああぁぁぁっ……!!


 つんのめって、勢いよくセシルさんにぶつかっちゃった。


 パーソナルスキル

〈「ドジ」〉


 って、それってスキルでも何でもないし!

 私の一番、ダメなところだし!!


 そんなスキルの発動、いらない。

 よりにもよってこんな時に!

 もう、泣きそう。

 これじゃ、本当に襲ってるみたい!

 

 これで決定! 私の人生終わるの?


 チートで選択間違いとされて、まだ実際には1分も経っていない?!

 

 そんな短い時間で?!


 ドジでジ・エンドなんて、あんまりだーーーーっ!


(そもそも選択ミスするのが悪い。なんて、いっちゃダメダメ。テヘペロ)

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