6話)眠れない夜 もしかして、バッドエンド?! だって、スマホもないんだよ! 仕方なかったのっ!!

 眠れない。


 眠れるわけがない。


 スマホがないのっ!


 それにすぐ慣れられるわけないじゃないっ!!


 ブチギレって、誰に?

 ああもう、布団の中でもだもだしているだけなんて!

 この豊満バティが夜泣きするのよっ!


 そう。

 私、きれいだったなあ……。

 シャワーなんてこの世界にもあるんだなって、そこはよかったって喜んだけど、ふと見た姿見の鏡に映った私。


 きれい……。


 ああ、これは聖女だわって、うっとり。

 ベールで隠されていたつややかな黒い髪は腰まであって、マンガでもアニメでもここまでやるかってくらいに整った顔で。

 裸もきれいだった。

 ボンキュッボンって、こういうのをいうのよね。

 おっぱいは張りがあって大きいのに、お腹はすらっと、きれいにすとんと。で、お尻はまた、バン!

 貧相な元の私とは大違い。

 ガリガリで、人目を避けるように猫背で、眼鏡で。いつもうつむいていて……。


 でも、ここでは私、聖女さま!


 もうね、誰もが振り向くに違いない!

 男だって、女だって。

 女の私がいうんだから間違いない!

 モデルだって、アイドルだって、こそこそ逃げる!!

 設定の、二十歳後半のお色気むんむん。……死語だよ。

 思わず、なんか色っぽいポーズしてみて、それが妙に様になっていて……、逆に冷めちゃったけど。


 素っ裸でやるなんて、痴女? 痴女よね、これって。


 軽く落ち込んで、部屋に入ったはいいけれど、眠れないの。


 私に与えられたのは、元は「薬草の魔女」のえらいシスターのお部屋。

 書斎っていうか、図書室?

 両側の壁すべて天井までの本棚。そこにびっしり、なんかもうぎっちり、分厚いハードカバーの古びた本がいっぱい。それがまるで覆いかぶさってくるみたい。威圧感ありあり。年代物の本の古びた臭いにも慣れない。普段スマホでしか本なんて見ないから、こんな部屋こそ私には異世界、異空間。

 夜が暗く、静かなのにも加えて、そんなのだからまるでお化けが迫ってくるみたいで、まるっきり眠気なんて誘われない。


 普段の私、つい昨日の夜も。

 ベッドのなかで子供が出てくる小説やマンガをスマホで漁って、そのかわいさや活躍に「でへへ」と夜更かし。

 お母さんもお父さんもいなければ、ずっとスマホでゲームとか、動画とか。

 ……そんなだから、遅刻代表とかって笑わられたりもするんだけど。


 今どきの女子高生!


 スマホは必須!!


 それが今は、ない。


 仕方ないんだけど、慣れられるわけがない。

 昨日の今日で、世界が一変したことを、こんなことで実感するなんて。


 あ、おトイレ行こう……。


 最小の〈ホーリーライト〉で、薄暗くて怖い夜の教会も少しは見える。


 でも、私、暗いの苦手なんだよなあ……。

 お化けも苦手。ホラーも苦手。

 苦手なものばっかり。

 あ、また落ち込んできた……。

 こんな姿、子供たちには見せられない。

 聖女さまは、聖女さまらしくしないと!


(スー、スー……)


 神経研ぎ澄ませていたら、子供たちの寝息?

 あ、これ、極上の音楽だわ。


 誘われるようにして、みんなの寝室へと……。


「なにをしていらっしゃるんですか!」


 あ……。


 怖い顔の、セシルさん。


 やっぱり、まだ私を疑っていらっしゃった?


「ち、違うのです。誤解です!」

「なにが誤解ですか! やはりあなたは人さらい……」

「そんな!」


 世界が、暗転する。

 天国から地獄へって、まさにこのこと?!

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