鳥好きの少女との出会い
―――まずい。見える。見えてしまう。
今は高校の入学式の翌日。みんなが少しずつ仲良くなり始め、温かな春の日差しが差し込んだ教室は賑やかだ。私も例外ではなかった。新しい友達が数名できて、ちょっと嬉しい。
でも、そんなことも今になってはどうでも良くなってしまった。すごい色を放っている女の子が見える。ほとんどのクラスの人が友達作りに勤しむ中、誰とも会話せず、一人で座って俯いている。しかも放っている色が色だけに、放っておけない。
こうなっては、魔法の目を使わないわけにいかなかった。目についてしまったら、使いたくなってしまうのが私だ。自分自身の運命を受け入れ、分解と解釈を始める。
―――怖がってる?
私が捉えた彼女はほんのり水色、でも橙色がかっていて、主にその二色が彼女の周りを激しく、でも小さく渦巻いていた。即座に私はその二色をそれぞれ「恐怖」「緊張」と解釈する。
先ほどから彼女はずっと下を向いている。肩は若干硬くなって震えているので、解釈に間違いはなさそうだ。誰も悲しまない世界がいい。みんなに笑っていてほしい。その信念で、私は彼女に近づく。彼女の目の前にゆっくりと回り込み、笑いかける。
「やっほー。いい天気だねー。」
我ながらかなり馴れ馴れしくて、若干の吐き気を覚える。それでも彼女は小さく、やや早く首を縦に動かす。困ったように笑っている。
「えーと、お名前なんていうの?」
「
ガラスのように繊細で、透けて見えなくなってしまいそうな声だった。可愛い声だと思った。その声質に若干圧倒されて若干の間が空いてしまう。
「ゆうかちゃんであってる?」
「はい、『ゆうか』です」
謎に聴覚に不安を覚えたので聞き直す。私はなるほど、となぜか深く頷いてしまう。
「あ、私は刈谷莉奈。よろしくね。」
「りな、さんですか?」
悠果ちゃんはわずかに、首をかしげる。よく見ていないと気づかないほどに。
「うん!りなだよ~よろしくね!それと、悠果ちゃんはどこから来てるの?」
「・・・近所で、徒歩です。」
「えっすご!羨ましい!うち県境あたりだから、すっごい遠くて、毎日大変だよ~。」
そう言って、私は悠果ちゃんの机を一瞥する。カバーが付けられた本が机の端に、きっちりと寄せて置いてある。
「これ、何の本?」
「鳥の本です。鳥、好きなんです」
少しはにかんでいて、体温のように若干の熱を帯びた返事が返ってくる。悠果ちゃんのペンケースから、鳥のデザインのホチキスが覗いている。そういうことか、と思った。悠果ちゃんは本を開き、私に見せてくれた。
「これ、ヒヨドリと言います。昔の家の近くによくいて、鳴き声が可愛いんです。」
思わず私の目は図鑑に吸い寄せられてしまう。これまで、まったく興味がなかった生き物に、急に興味が芽生えた気がした。
私が悠果ちゃんに吸い寄せられたのは、自分の「好き」な気持ちを大切にしているから、そんな考えがふとよぎった。
でも、私はその考えが体に滲みて痛みになる前に、握り潰してしまった。
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