第8話 スタンピード殲滅作戦

今町に居た最高ランク(Cランク)冒険者を先頭に森へ突進する。

森の浅い部分にいる低ランクの魔物は無視し、後続のD、Eランクの冒険者に任せる。

Cランク冒険者が目指すのは、ボスのみ。

俺たち低ランクの冒険者たちも負けずとゴブリンやウルフを殲滅していった。

そして、周囲には魔法が飛び交い、被弾しそうになる。


「エミリー、味方の魔法にも気を付けて。俺、さっき火の玉が当たりそうになったよ。」


「当たれば火魔法を覚えられたんじゃない?」


「やだよ。丸焦げになるかもしれないじゃん。おっと、火魔法と風魔法を覚えたよ。見てるだけでも覚えられて良かった。たくさん魔法も覚えられるし、今回参戦して良かったかも。」


「私もは土魔法と闇魔法を覚えたわ。あと、属性魔法は氷と雷だけね。さっきのCランクパーティに魔法使いさんが居たからもしかしたら持ってるかもよ?」


「よし、粗方片付いたら俺たちも奥を目指そう。」


職業を剣士から魔法も剣もバランスの良い勇者に切り替えた。

そして、新たに覚えた属性魔法も使いながら周囲の魔物を狩りまくった。

魔物が減ってきたことを確認し、残りは皆さんに任せて森の奥へ走った。

しばらく走ると激しい戦闘音が聞こえてきた。

そこで見たものは巨大なゴブリンだった。


「あいつがボスか。鑑定。」


*鑑定

 名称: ゴブリンジェネラル

 ランク: B

 特技: 威圧、統率、身体強化・中、斧術

 素材: 魔石、討伐証明部位(左耳)、斧


Cランクパーティ4人が戦っている。

前衛2名(剣士、盾使い)、後衛2名(魔法使い、僧侶)のとてもバランスの良いパーティだった。

盾使いが攻撃を押さえ、剣士が剣で攻撃、魔法使いから攻撃魔法が飛び、僧侶がキズを癒す。

格上の相手だが、互角に戦っているようだ。

ジェネラルは足が凍り付き身動きが取れないでいる。

周囲の手下ゴブリンは魔法使いの範囲魔法で蹴散らされていく。

このパーティは魔法使いがとても優秀のようだ。

炎、氷、雷の3属性の中級魔法が次々と炸裂する。

しかし、決定打にはならず、時間が過ぎていく。


俺たちが入ると邪魔になるので彼らの戦闘を観察しながら少し離れて周囲の雑魚を減らしていく。

おかげで氷と雷魔法を覚えることが出来た。

全属性魔法コンプリートだ。


そして、とうとうその時が来てしまった。

魔法使いのMP枯渇だ。

一気にバランスが崩れた。

ジェネラルが吠える。

威圧によって体が硬直する。

硬直した盾使いと剣士がジェネラルの斧の餌食となり吹き飛ばされた。

2人とも木に叩きつけられ動かなくなった。

不味い展開だ。

僧侶が駆け寄りキズを癒す。

魔法使いはMP枯渇で意識を失った。

このままでは全滅だ。

俺は気配遮断を発動し、まだ凍り付いた足のおかげで動かないでいるジェネラルの背後に回った。

そして、力いっぱい斧を持った右腕を切り落とした。

ジェネラルは発狂とともに犯人の俺を探したが見つからない。

その時、俺の剣は耐えきれず折れてしまった。

ここで魔法を連射したら俺の居場所がすぐにバレてしまう。

俺はそっと離れ、エミリーの側に落ちていた剣士さんの剣を拾った。

俺が剣を拾ったことを相棒のエミリーだけは気付き、俺がしようとしていることが分かったようだ。

覚えたばかりの氷魔法と雷魔法を連射し、ジェネラルの気を反らしてくれた。

俺はまた背後から今度は首筋を狙い、全身の力を込めて振り下ろした。

地面にジェネラルの首が転がった。

俺とエミリーの脳内にレベルアップのアナウンスが鳴り響いた。


僧侶の回復魔法のおかげでCランクパーティ全員が命を取り留めた。

森の入り口付近で戦っていた冒険者たちも魔物を狩りながら奥に進んできた。

残った魔物を全員で狩り尽くし、スタンピードの殲滅作戦が完了した。


借りた剣を剣士さんに返すともらってほしいと言われた。

どうやら今の俺には買えないくらい高価な剣らしい。

有難く頂くことにした。


帰り道、Cランクパーティの皆さんと仲良くなった。

剣士ジョン、盾使いサンジ、魔法使いケート、僧侶メイの4人だ。

ケートさんはエミリーが持っていた魔力回復ポーションを飲んで意識を取り戻したが、初級なのでまだ歩くことはできない。

それで、サンジさんに背負われ「面目ない」を繰り返し唱えている。

町が見えてきたころには回復し、歩けるようになった。

流石に凱旋の時に背負われているのは恥ずかしいと根性で歩いている。


俺たちを見つけた町の人から歓声が上がる。

「ありがとう」「ご苦労様」「カッコイイ」の合唱だ。

とても気持ちが良い。

戦いに参加して良かったと思う。

不意に「好き」「抱いて」「結婚して」と聞こえて、「えっ?」ってなったが。


歓声は冒険者ギルドへ到着するまで続いた。

ギルドへ入るとギルドマスターとスーザンさんが出迎えてくれた。


「良くぞ無事戻られた。そして、町を救ってくれたことを感謝する。今日は儂のおごりじゃ。好きなだけ呑むが良い。」


「うおおおお!」


冒険者たちは歓喜した。

魔物を殲滅した時よりも喜んでいる気がする。

その後、宴会は朝方まで続いた。

朝、酔いつぶれて寝落ちした冒険者が転がっていた。


「スーザンさん、おはようございます。」


「おはよう。君は元気ね。エミリーちゃんは?」


「まだ寝ています。ところで、聞きたいことがあるんですが今大丈夫ですか?」


「徹夜明けでボーっとしていることと、肌がボロボロなこと以外なら大丈夫よ。」


良く分からない返答だが、スーザンさんは相当疲れていることは分かる。

そっとヒールとクリーンをかけてあげた。


「ダンジョンについて聞きたかったんです。近くにありますか?」


「この町の付近には無いわ。馬車で北に2日くらい離れたところには初級ダンジョンがあるけど、興味あるの?」


「はい。ダンジョンを攻略することが俺の夢なんです。(使命なんです。)」


「じゃあ、手始めには良いかもね。攻略済みダンジョンだし、Eランクまでの魔物しか出現しないわ。」


「ありがとうございます。近いうちにエミリーと攻略してきます。」


「ところで、聞いたわよ。あなたたち、最前線にまで行ったそうね。危ないじゃない。ジョンさんたちが倒してくれたから良かったものの。襲われて死んでいたかもしれないのよ。好奇心旺盛なのは若いから仕方ないけど、無謀な行動は控えるようにね。わかった?」


「はい。わかりました。」


「スーザンさん、それは違うぞ。」


「おはようございます、ジョンさん。何が違うのですか?」


「ゴブリンジェネラルを倒したのは俺たちでは無い。その坊主だ。」


「はい? えっ? えええええええ! 嘘よね? Fランクのケルビン君がBランクのゴブリンジェネラルを倒したっていうの? 間違いよね?」


「はぁ? ケルビンはFランクだったのか? 嘘だろ。信じられない。」


「2日前に登録したばかりのFランクで間違いないですね。」


「ちょっとケルビン君。冒険者カードを出してちょうだい。確認するから。」


そうだ。どうなっているのかは分からないが、この冒険者カードには討伐した魔物の情報が記録されるのだ。


「・・・。確かにゴブリンジェネラルの記録があるわ。それにすごい数の魔物を倒しているわね。どれだけあなたは活躍していたのよ。驚きすぎて逆に呆れるわ。」


「俺とケルビンの戦闘力は恐らくあまり変わらんぞ。ランクアップを考えてやってくれ。」


「そうね。ギルドマスターに相談してみるわ。報酬の方も期待していてね。」


「正直、あまり目立ちたくないのですが。。。」


「それは無理よ。あなたは町を救った英雄なのだからね。」


俺は英雄になってしまったらしい。

そこへエミリーが来た。


「おはよう、エミリー。どうやら、俺たちは英雄になってしまったらしいぞ。」


「そうなの? まあ、嫌われるよりは良いわよ。誇りましょう。」


「エミリーちゃん! いつも危ないことはしちゃダメって言ってるでしょ! ジョンさんに聞いたわよ。」


「ごめんなさい。スーザンさん、そんなに怒らないで。」


「とにかく詳細を知りたいから2人ともギルドマスターの部屋までついてきてちょうだい。ジョンさんも良いですか?」


「ああ、構わない。この二人に俺たちが助けられたのは事実だからな。俺が詳細を説明してやろう。」


「助かります。さあ、行くわよ。2人とも早く来てちょうだい。」


そして、ギルドマスターの部屋でジョンさんの脚色が付きまくりのボス戦が語られた。

だって、そのころジョンさんは吹き飛ばされて気絶してたよね?

否定するのも面倒になり、俺は頷くだけでいた。

あれよあれよという間に俺たちのランクアップが決まった。

Eランクを飛ばしてDランクになった。

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