第7話 森の異変

森に着くまでホーンラビットを乱獲した。

というか、ウサギはエミリーの魔法の練習の標的にされていた。


「凄いわ。私、確実に強くなってる。それにまたレベルが上がったわ。」


ドヤ顔のエミリーは放っておいて、俺も魔法の試し打ちをしてみようと思う。


「ホーリーアロー!」


光りの矢がホーンラビットに突き刺さり絶命した。


「ちょっと待った!! 何でケルビンが攻撃魔法を使えるのよ! 生活魔法しか使えないって言ってたよね?」


「あの時はね。昨日、教会でシスターにヒールしてもらって光魔法を覚えたんだ。あと、今はエミリーのウォーターボールを見て水魔法を覚えたよ。」


「何ですって? そんな能力がケルビンには有ったのね。」


「エミリーだって同じだよ。はい、ヒール。」


エミリーにヒールをかけてあげた。


「あっ! 光魔法を覚えたわ。神様の加護って本当に凄いわね。私、2属性持ちの魔法使いになっちゃった。」


ついでにクリーンもかけて生活魔法も伝授した。

エミリーはクリーンが使えるようになって凄く喜んでいる。

女の子には必須だよね。


「そろそろ森に向かおうか。でも、少し休憩してからにしよう。エミリーのMPが底をつきそうだ。」


「そうね。気持ち悪くなってきたところよ。もうちょっとでMP枯渇で倒れるところだったわ。私がMP無くなったらタダのお荷物よ。何もできないからね。」


「MP回復ポーションが必要だね。エミリーは持ってるの?」


「初級回復ポーションが2本あるわ。高いし、苦くておいしくないのよね。でも、死ぬよりはマシかなって感じ。ケルビンもMPが枯渇しそうなの?」


「いや、作れないかなと思ってね。貸してもらえるかな?」


「良いわよ。」


エミリーがウェストポーチから魔力回復ポーションの小瓶を取り出し渡してくれた。


*鑑定

 名称: 初級魔力回復ポーション

 特徴: MP+50回復。価格5銀貨。

 材料: 魔力草+魔力水


魔力水はおそらく生活魔法のウォーターで良いだろう。

魔力草が分からないな。

ケインの記憶にも無い。


「エミリーは魔力草がどこに生えているか分かるかい?」


「ダンジョンの中にある森に生えていると聞いたことがあるわ。」


「なるほど。ところで近くにダンジョンってあるの?」


「町の近くには無いはずだけど、わからないわ。スーザンさんに聞いてみましょう。」


「そうしよう。MP回復まで何もせずにいるのも何だし、お茶でも飲むかい?」


「良いわね。椅子とテーブルを出してちょうだい。」


インベントリから椅子とテーブルを出し、草原のど真ん中に設置した。

すごい違和感だ。

それから温かいお茶の入ったポットとカップをテーブルに並べ、おやつタイムとなった。


「すぐに温かいお茶が飲めるって素晴らしいわね。何時間経っても温かいままって、ケルビンのアイテムボックスは優秀すぎるわ。」


「2人だけの秘密だからね。」


「わかってるわよ。」


1時間ほど休憩した後、後片付けをして森へ向かった。

森に入った瞬間、魔物の気配がした。

マップを見るとこんな浅い場所にウルフが群れていた。


「エミリー、近くにウルフの群れがいる。臨戦態勢で臨んでくれ。」


「わかったわ。方向は分かるの?」


「右斜め前に10頭の群れだ。俺が先を行くから後ろから魔法で応戦してくれ。」


エミリーは緊張の面持ちで杖を構えた。


「ホーリーアロー!」

「ホーリーアロー!」


俺とエミリーの放った複数の矢がウルフの群れを襲った。

半数のウルフが倒れたが、半数が襲い掛かってきた。

俺は剣を握り、素早く身をこなし、次々とウルフを切り伏せていった。

あっという間に群れは殲滅された。


『レベルアップしました。スキル「パーティ編成」を獲得しました。』


早速、パーティ編成を起動した。


パーティ編成: 最大6名までのパーティ編成が可能。

        経験値を共有し、分配することができる。

        分配率は変更可能。


健一の記憶でわかる。

これはRPGロールプレイングゲームのパーティと同じだ。


「エミリーにパーティ申請を送るから承認してね。」


「ん? 良くわからないけど。分かったわ。これを承認すれば良いのね。OKと。」


この世界のパーティは、一緒に行動するだけの名目上の仲間なだけだ。

経験値はトドメを差したものにしか与えられない。

それでケインはほとんど経験値を得られずレベルアップできなかったため、弱いままでパーティのお荷物となっていたのだ。

このスキル「パーティ編成」のおかげでパーティメンバーに経験値が分配されるようになったのだ。

とりあえず、等分配にしておこう。


「それにしても、こんな森の浅い場所にウルフがいるなんて異常だわ。森に何かが起こっているのかもしれないわね。」


「もう少し調べてみよう。」


森を進むとやはり昨日よりも魔物の数が多い。

ウルフ、ゴブリン、ワイルドボアが次々と襲い掛かってくる。

レベルアップした俺とエミリーの敵では無いが。

おかげでレベルも上がって有難い。

昨日、エミリーと会った場所まで来たがやはり魔物が多い。

上位のハイウルフまでもが現れ始めた。

やはり異常だ。

そのまま進み河原まで来た。

目的の珪砂を大量に入手した。


「目的は達成したし、この異常事態をギルドへ報告しよう。」


「そうね。なんか悪い予感がするわ。急ぎましょう。」


すると背後に今までにない大きな気配を感じた。

フラグを立ててしまったようだ。


「オ、オーク?!」


この森に居るはずの無いオークが現れた。

逃げられるとは思えない。


「エミリー、援護を頼む。行くぞ!」


「了解! 全力で行くわよ! ウォーターカッター! ホーリーアロー!」


オークが魔法を受けながらも突進してきた。

俺も剣を握りオークに向かった。

そして、オークの目の前で気配遮断を発動した。

目標の俺の姿を見失ったオークが一瞬動揺した。

その隙に背後に回り、心臓付近に力いっぱい剣を突き刺した。

断末魔の叫びを上げて、オークは力なく倒れた。


「はぁー。倒せた。流石に怖かった。」


「私も足が震えているわ。オークを見たのも初めてよ。まだ居るかもしれないから早く町へ帰りましょう。」


2人は町に向かって走った。

そのままギルドへ駆け込んだ。


「スーザンさん!! 森が変!」


「え? どうしたの?」


「森に異変が起きてます!」


「2人とも落ち着いて。詳しく話して。」


「森の入口付近にウルフが群れてた。奥にはハイウルフもいたの。さらに河原にはオークも居たの!!」


信じてもらえないと思って俺はオークの死体を出した。


「これは大変だわ。ギルド内にいる冒険者はその場で待機してください! 緊急招集を発令します。」


スーザンさんがギルドマスターのところに許可の確認に走った。

町内にけたたましいサイレンが響く。


『町内の皆さま。冒険者ギルドよりお知らせです。西の森でスタンピードの兆候が確認されました。町の外には絶対に出ないようにお願いします。また、冒険者の方には緊急招集を発令します。すぐにギルドへ集まってください。』


町内アナウンスも流れた。


スタンピードとは、高ランクの魔物がボスとなり、周囲の魔物を率いて移動し、進行方向にある町などを襲う魔物の大集団をいう。

また、ダンジョンから魔物が溢れ出すこともスタンピードという。


緊急招集はCランク以上は強制だ。

Dランク以下は任意となる。

Fランクの俺たちはもちろん任意だ。


「ケルビン、どうする?」


「気になるから参加しようと思うんだ。でも、安全第一で危ないと思ったら逃げることにしよう。」


「わかったわ。じゃあ、参加しましょう。」


しばらくするとカウンターの奥からおじいちゃんが現れた。


「冒険者諸君、集まってくれてありがとう。ギルドマスターのジャックだ。西の森でスタンピードの兆候が確認されたと報告があった。先発隊がすでに向かって調査をしている。おそらく魔物たちを率いるボスの存在が予想される。魔物の殲滅とボスの討伐が今回の緊急クエストだ。報酬は通常の1.5倍としよう。町に被害が及ばないように確実に殲滅してくれ。以上だ。」


話し終えたところに先発隊が戻ってきた。


「確かに森に異変が起きている。普段よりも数が多く、存在しないはずの魔物も多数いた。どこかから移動してきたとみて間違いないだろう。しかし、ボスの姿が確認できなかった。これ程でかい群れだ。きっと高ランクのボスが率いているのだろう。」


「聞いた通りだ。諸君、気合を入れて取り組んでくれ。残念ながら今ここにいるのはCランクの冒険者が最高のようだ。危険かもしれない。しかし、諸君に町の運命がかかっている。必ず殲滅してきてくれ。無事帰還してくれることを祈る。」


「うおおお! やってやるぜ!」


フル装備の強そうな冒険者たちが次々とギルドから出て森へ向かっていった。


「よし、俺たちも行こう。」


「うん!」


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